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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

ゼミ9:被災地の都市計画

都道府県による任意の広域マスタープラン策定の試みにみる日本の広域計画の課題

瀬田 史彦

都市計画論文集2006 年 41.3 巻 p. 791-796

内容

日本の都市計画において,広域的な連携の必要性は既往の研究などから長く指摘されてきた.またこの研究蓄積は少ない.そこで,本研究では現在の広域計画の問題を端的に指摘し,策定の取組の即値性・実効性を文献調査・ヒヤリングで明らかにすることを目的としている.

まずこれまで国レベルの全総があったが,事業が中心で土地利用の規定がない.区域マスは2000年の法改正で広域的位置づけが与えられた.現状は8割が単一の自治体で計画を定め,広域的なものがない実態が明らかとなった.またこの単独でも,うち2/3が一部地域のみの策定だった.よって区域マスは広域計画とはいいがたいと指摘している.また国土法は国土利用計画を定めているが,比較的自由だが,実態として多様性に欠け,理念的な記述が多く,市町村の策定率も6割程度である.土地利用基本計画も2006年現在で5地域の指定に留まり,これら3法は機能として不十分と指摘している.

2000年の法改正により,都道府県の広域マスが増加した.全国6県へヒアリングを行った.これによると法改正が計画のきっかけという回答が多く得られた.しかしマスの上下関係は踏まえるものとし明示されているものの,実態として差異があり,十分には機能していないと述べている.また下位計画が3年以内に策定という条件があり,同時に策定したりと本来の趣旨と異なる運用が示唆された.また2000年当時は大合併の時期で,社会背景も指摘されている.そして将来的には各階層の都市計画区域を統合したいと考える県が多いものの,それが実現するのは数十年後だろうという見方が大勢であった.

内容として軸・拠点・ゾーンが順に具体的な指針になりうるだろうと筆者は考察している.軸は実効性のある即地的なランドマークの表示たりうるだろうと述べている.拠点は開発の位置づけにより即地性となるだろうとしている.しかし実態として,コンパクトシティを促すようなものは見られなかった.ゾーンについては,「現状の用途」と合わせたものを示すか端的なものを示すしかできないとなっている.これは農林調整のためで,計画部局からは難しいという意見が多かった.またコンパクトシティを考えている県はあったものの,県土マスでは実現手段がないだろうと考察している.

なお五全総は位置づけのない県ではほとんど影響がなかったようである.

感想〇

各種課題が明らかとなり面白かったがやや古かった.法律の難しさを感じた.

 

原子力発電所事故避難者受け入れ等に伴う都市計画への影響について人口と土地利用変化に着目した福島県いわき市を対象として

齊藤 充弘

都市計画論文集2018 年 53 巻 3 号 p. 919-926

内容

作業員受入により地価高騰により軋轢が‘生まれている,経済・社会学など様々なアプローチが既に行われている.そこでいわき市の都市計画の影響を,明らかにすることを目的としている.これにより緊急時対応の先行例と課題などが示唆されるとしている.

いわき市も沿岸部で津波被害を受け,内陸も本震1月後の余震で土砂災害などを起こし,仙台に次ぐ住宅被害であった.震災後,応急仮設住宅が設置されたが,市民向けは5%ほどで多くは原発周辺向けだった.またこれらは市内各地に分散し,工業地域や市街化調整区域など不適切な地域に建設されたものが見られた.地域上,買い物施設などが遠く不便なため,バスも運行されたが,毎時1本にとどまっていた.ごみ収集は,分別に関するトラブルや,意図しないスプロール化で回収経路においてコストの増大の影響もあった.また入居者の地域の避難解除が行われても住み続ける住民も見られた.その後,市民向けの災害公営住宅が主に市街地に建設され,避難者向けの復興公営住宅はまばらに建設された.

「土地利用に関する懇談会」についてまとめている.震災後の流入者は2.3万人ほどで,民間のみなし仮設が生活しやすいと言われ,3:7で数字にも表れていた.これにより市内では賃貸が高騰し,市民との軋轢の懸念がある.公示地価は11%上昇し,全国10位に入る勢いであった.交通渋滞も増加しているようである.復興公営住宅も不便だが,棟により出身地域を分類し,コミュニティの保全を図っている.懇談会ではこれらを受け,線引き見直しが検討された.しかしこの局所的な変化と,人口減少による大局的な変化のギャップから難色が示された.結果として,市街化調整区域における地区計画で対応している.これにより無秩序開発は抑制できると述べている.

市全体の人口変化も分析し,受け入れと流出の差し引きから,2.3%の増加となっている.そして年少・生産年齢人口の増加が見られた.土地利用では,空地から宅地への変化が26%で最大で,次いで空き家から宅地が10%で,宅地化への土地利用変化が多く見られた.

感想〇

各講義で被災地を対象にしていたので読んだ.高専生の研究で親近感があり,しっかりまとめられておりよかった.しかし渋滞については,データがなく述べられるにとどまったのが残念だった.緊急の建設開発でスプロール化した現象は,考えれば当然のことだが興味深い.

 

壊滅的被災下における住民主体によるコミュニティ再生の支援に関する実践的研究

南 正昭, 添田 文子, 平井 寛

土木学会論文集F5(土木技術者実践)2014 年 70 巻 2 号 p. 46-55

内容

被災地では所により従前のコミュニティが崩壊し,住民と行政の合意形成の素地が失われる地域もあった.住民が厳しい状況の中,担い手として外部支援者があった.しかし住民の判断が介入する余地はなかった.そこで両者の動的な相互のアプローチが必要である.そこで宮古市を対象に,住民主体のコミュニティ再生と基盤づくりを目的とし,実践的支援技術開発をまとめている.これは既往研究を基に,SPDサイクル(See-Plan-Do)をベースに作られた7段階コミュニケーション技法である.

まず被災直後は,概要を把握・理解する必要がある.その後,一般の聞き取りがしやすくなるが,平時に比べ心理負担は大きい.配慮が必要であり,また話したいと思う人も聞き手の人柄によることが明らかとなった.定型化されたアンケートでも心理的余裕のなさが確認された.また聞き取り方において,訪問などではなく場起こしにより,自発的に訪れてもらう形式がより相互の信頼関係形成に寄与するだろうと考察している.平時のまちづくりWSではKJ法が多用されるが,これは住民の自発性が求められ被災状況に即さず不適切である.そこで筆者は拾い上げるプロセスを重視し,検討を行った.また被災当初は問題が山積みで対処が非常に難しい.そこで地元祭事復活などの実践目標を掲げることが望ましいと述べている.また副次的な効果が見込まれ,予めリスクを共有・把握しておくべきと述べている.

これらを踏まえ現地での調査結果をまとめている.まず10/13に仮設の住民に半構造化インタビューを行った.そこでの交流があるのは72%だった.交流がないうち8割は顔見知りがおり,相手はいるもののきっかけなどに欠ける現状が示された.また交流の有無と関連し,将来の楽観性に差異があった.そのため交流施設が求められたが,整備されたものは外部支援者が不定期に多く利用し,内部の促進への寄与が小さく,これこそが必要だと筆者は訴えている.そこで「たろちゃん研究室」や回覧板を設け経時的な交流・分析を行っている.

拾い上げるブレーンストリーミングにより,多くがコミュニティへ内在的問題を抱えていることが顕在化した.また簡略化したWSにより,4つのトピックを設け施策の実施後の課題をポストイットに記入し,回覧板で共有するなどした.また2年間をあけて対話型面接聞き取りを行うなどの成果が得られた.

感想◎

正直,コミュニティにあまり関心はなかったが,WSなどが含まれて,その点面白かった.外部支援者がエゴにならないようにするのも,大切なのかなとも思った.

 

震災被災地における復興支援手法としての提案型学生ワークショップの可能性に関する研究 野田村復興まちづくりシャレットワークショップ4年間のふりかえり

河村 信治, 市古 太郎, 野澤 康, 玉川 英則

都市計画論文集2015 年 50 巻 3 号 p. 379-386

内容

岩手県北部の野田村では「野田村復興まちづくりシャレットWS」(NCWS)が2011年から4年開催された.ここでシャレットとは,デザイナーがドラフトを大量に描きながらステークホルダーとの情報共有を図る米で多用されるWS手法である.ここではPDCAの一環として,課題を明らかにし,展望を考察することを目的としている.これにより特殊解が共有され,CWSの今後の参考になり,各地の知見となるだろうと述べている.野田村の復興は震災復興のみならず地方衰退に対する持続可能性の課題とも重なっていたとしている.

NCWSは,外部からの勝手な取り組みだと,筆者は理解して企画された.構造としては,拠点は東京で工学院大・首都大・京大が被災地外で意見を集約し連携して,現地で八戸G・弘前G・地元Gさらに公的組織との連携から成る.4ヵ月後1回目が行われ地元参加者は2名,学生らが40名ほどだった.しかし外部意見とボランティアからの地元”寄り”の意見で手ごたえがあったとしている.そして交付金による整備内容から生活の具体化を見据え2回目に繋がった.2回目では事前に農協・漁協・自治会・学校らへ聞き取りに基づいて行い,生活のシナリオ整理,空間的事業位置づけ,空間利活用の視点で提案がまとめられたと述べている.これを通し,自己完結ではなく地域の若者との共有の重要性,リアリティあるわかり易いイメージの必要性が課題として挙がったとしている.3回目は学生と住民が数日間交流することで行われた.なおそのためシャレットの趣旨からは外れている.ここでようやく能と受の共有が図られた.これを踏まえ4回目も同様に行われたが,参加者は20名ほどで小規模となった.ここでは学生のエゴ的部分に漁協から厳しい指摘がされたエピソードも記述されている.最終日にKJ法で整理が行われた.意見はまとまったものの,それに対し住民から現実的な厳しい指摘も多くあった.

感想△

論文ではここまで批判的な表現はされていないが,私の受け取り方としてこのようなまとめとなった.ここでは建築のエゴ的な状況に即さない手法が問題になったように読んでいてしばしば感じた.反面教師的に交流や合意形成の重要性を実感した.また学生だからしょうがないというような記述も見られげんなりした.

 

津波被災地において復興土地区画整理事業が住民の居住地選択に与えた影響 岩手県釜石市A地区を事例として

荒木 笙子, 秋田 典子

都市計画論文集2017 年 52 巻 3 号 p. 1088-1093

内容

震災を受け,面的事業の防災集団移転促進事業(防集事業)と被災市街地復興土地区画整理事業(整理事業)が,居住地の主要な復興事業として導入された.時間の経過により概ね目途が立っている.三陸津波常襲地域と知られていたが,移転先の折り合いがつかず居住し続けたことが既往で指摘されている.被災の土地区画整理は,奥尻島阪神淡路で見られたが,地価上昇の見込めない土地で行われ,事業に無理があったとの指摘や現実に衰退がある.また東北は復興事業が進むが,経時的に状況が変化するため,居住地選択の要因分析が難しい.上記を踏まえ,どのタイミングで居住地選択したかを明らかにすることを目的としている.

まず事業は,数と面積から整理事業の方が,規模が大きいことが示唆された.状況としては,岩手県内では,陸前高田が高台移転により1位で,釜石が続いている.釜石では2017現在仮換地が終わり,2018年度末に事業完了予定とまとめている.対象地は釜石の沿岸地域で,漁業と鉄鋼業が主要産業だった.市域の37%が非線引き用途指定され,人口は1963以降減少し震災でさらに加速した.支援金制度がまとめられ,金銭面で事業域内に留まる利点がほぼないことが示唆された.

方法としては,特定地区100世帯のアンケートの追跡調査としている.特徴として地域の繋がりの強さが挙げられる.この地区は浸水したが,一部整理事業範囲に含まれていない.これは市がすぐに住んで欲しかったための忖度的なものだったとヒアリングで示された.空間利用は震災前に比べ建築物は1年後31.6%だった.2015年は39%だった.また整理事業内は0%となるはずだが,補修や計画前の駆け込みにより6.3%だった.また浸水区域外は民有林で開発が困難で,域内も残った建物により一体的嵩上げなどが行えていない.アンケートは図の通りで,区域外に移った人の回帰志向が示唆された.

感想〇

経時的な分析がされていたのが非常によかった.迅速な対応の必要性と難しさを感じた.

 

Framework Considerations for Community Resilient Towards Disaster in Malaysia

Noraini Omar Chong, Khairul Hisyam Kamarudin, Siti Nurhuda Abd Wahid

Procedia Engineering 212 (2018) 165–172

内容

防災レジリエンスについて,disaster risk reduction(DRR)を3つの視点から分析している.①コミュニティの主な首都,②主な要因,③主要な成果.

まずレジリエンスについてまとめている.属性としては,容量・機能,資本,時間,達成度,空間を挙げている.これらはしばしば資本(縦軸),時間(横軸)で説明される.達成度は縦軸の位置により,達成,跳ね返り,悪化,崩壊を挙げている.

マレーシアの枠組みを下図のように紹介している.関心ごととして,社会・環境・経済を円で示している.それぞれ表にまとめ,収入の多様性・外部依存度・セキュリティ,安全・福祉・地元文化・コミュニティ,インフラ・研究・交通・農業・生物多様性などである.そして前段階でコミュニティの重要性を述べ,機動力が重要としている.具体的には,エンパワーメント,多様性の統合,ステークホルダーの交流,進行役と枠組みを挙げている.

感想△

図が見やすくまとまっていたのはよかったが,対象が少なく,概念的だったと思う.さらに前半に書いてあることと後半に書いてあることが違うように思えた.結果として具体的にどうしたらよいかよくわからなかった.

 

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