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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

ゼミ12:モーダルシフトほかのレビュー

都市旅客交通のモーダル・シフト政策に伴うCO2排出量削減効果の推計

林良嗣,加藤博和,木本仁,菅原敏文

土木計画学研究・論文集1995年12巻p.277-282

内容

集中講義で海外の大気汚染に関する課題があったので,それと関連しそうな分野で選択.本研究はモーダルシフトの簡便なマクロモデルを構築し,それぞれ政策を行った削減効果を評価することを目的としている.

モデルは,①自動車分担率,②エネルギー消費/③CO2排出の3点を軸に構成される.自動車の保有,各機関の走行距離を組み込むことを検討していたが,データの制約上困難だった.①は乗用車保有率,地下鉄延長を用い,ロジットモデルで推定した.②は①と燃料価格を用いて重回帰で推定した.③は②から線形の式で求めた.なお,これらはR≧0.89で,十分な精度が得られている.

これを東京の1980年において,政策の効果分析で感度分析した.環境税は,排出削減と財源調達の効果が期待されている.まず燃料税/炭素税を,増徴する際の効果を分析している.ここでグラフが示され,10%の増徴を例に以降の分析に言及している.すると3%消費が削減されることが示され,価格弾力性は0.15だった.日本全国のデータは0.23ほどである.よって感度はやや低い.しかし10%ではなく,100%ほどの95年現在の高税率が,CO2削減に大きく寄与していることが示唆された.また,財源としては単純な計算ながら230億円が推定された.

次に鉄道整備を検討している.前者同様3%削減するには,75㎞の新設が必要なことが示された.半蔵門線を原単位に金額にして2.21兆円と推定された.そのため鉄道は,100倍のコストがかかることになる.しかしフローとストックの違いがある.よって100年効果があることを検討すれば,費用対効果は概ね同等とまとめている.

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感想〇

全体として大胆な簡易化が行われており,結果の信頼性に疑問もある.相関係数は担保されているが,段階を追うごとに精度が低下している懸念がある.トリップの長さや燃料を考慮できていないのは残念だった.しかし世界でも適用可能なレベルに落とし込まれている点は評価できると思う.また最終的な結果として,環境を政策によって改善する/させるには,非常に大胆なプロジェクトなどが必要なことが分かった.今回地下鉄でこの結果なので,LRTなどではより効率がよいのではないかと思った.また環境税のグラフは思いのほか収束が遅いと思った.

 

ロードプライシングの賛否を中心とした交通と環境の意識に関する住民の意識構造分析

新田保次,松村暢彦,森康男

土木計画学研究・論文集1995年12巻p.747-756

内容

前述の同様の理由と,五輪の首都高への導入について把握したく選択.そもそもロードプライシングはTDMとして“自動車の交通混雑による外部不経済を,料金として内部化し,適正な自動車交通量を実現“が目的と記述されている.95年現在,世界の3都市で行われ,交通量に応じた料金の変化の検討なども行われていた.日本では遅れつつも90,91年に大阪で調査が行われ導入の可能性が示された.そこでその意識構造から導入の糸口を探ることを目的としている.なお地域は大阪から北の千里などを含む地域で,地域ごとに意識の差があると考えられるので,本研究では郊外に着目している.

データはポスティングしたアンケートを用いサンプルサイズは940票である.大気汚染と道路混雑の住民の体感として,それぞれ73%,82%が非常に深刻と捉えており,深刻も加えればほぼ全員が含まれていた.次に賦課金そのものについて,世界的状況を簡単に説明したうえで賛否を問った.結果,賛成26.7,やや賛成26.7,中立20.2,やや反対9.2,反対17.1%だった.さらに非賛成者について,賦課金の使途を示したうえで再び問った.すると44.4が賛成に傾いた.結果的に賛成派76.1,中立9.6,反対派14.3%という結果になった.またこれを地域ごとに比較したが,山手台は不便ながら賛成優位であるほど,公共交通の利便性にそれほど相関はなかった.環境問題の意識も質問している.まず大阪のCO2達成度はあまり知られておらず,これを受けてかすべての地域で基準を達成すべきとなりつつも,費用とのトレードオフは深刻な箇所のみが半数を占め,徹底派は23.3%にとどまった.また交通問題と関連しない,生活での環境配慮がどの程度か13個を現在・将来で質問している.

これらの結果の主因子分析法より,4つの因子に分類された.解釈は,①利便性低下の許容度,②交通問題の深刻度,③環境行動程度,④CO2基準達成度と考察している.

まとめとして,60%の人が交通量の削減を望んでおり,これと環境意識には相関があった.ライフスタイルと自動車利用は関連があまりなく,直接的な合意形成は難しいが間接的に寄与できるとしていた.また普段の利用が多いほど抑制に反対だった.

感想◎

賦課金を環境について説明すると賛成がこれほど優位になるのに驚いた.当時は大気汚染も深刻だったが,現在は目先ではあまり深刻に感じられない一方,一般的な重要性が浸透している(後者は筆者も)と思う.そのため過去と比べ好転か悪化かは興味深い.東京五輪に関しては,環境へポジティブというより,しょうがない感じで,個人的には悪そうだと思う.

 

輸送事業者のCO2排出原単位のスケール効果

熊井 大, 吉田 好邦, 松橋 隆治

環境情報科学論文集Vol.27(第27回環境情報科学学術研究論文発表会)p. 127-132

内容

輸送のCO2削減が急務でCO2の原単位の研究が進む中,スケール効果について扱ったものはなく,各論文で片対数などが用いられることがあるが妥当性は不明である.そこでこれを明らかにすることを目的としている.そこでスケール効果を片対数と両対数でモデル化し回帰分析によって,状況に応じ適切な選択が行えるよう検討を行う.

積載物により特性が異なるので,データを旅客/交通モード/貨物品目などで12カテゴリに分け,サンプル数はそれぞれ5~87だった.またデータの制約上,旅客は人・kmではなくkmの原単位を算出している.

まずただの比例式の場合,5%有意となり,旅客や燃料輸送はR2>0.9で高かったが,医薬品など一部品目は0.450など低くなった.片対数では旅客が悪化したものの,貨物は概ね向上しスケール効果があるのが確認された.医薬品については0.980まで改善している.しかし悪化する品目も見られた.ここでスケール効果は,微分により弾性値を求め,値が1以下かで求められる.さらに両対数が行われたが,3つの中で最も優れたカテゴリはなかった.

考察において既存の研究が挙げられ,事業者の事業規模(輸送量)により分類を行ったところ,下位30%の方がCO2排出量のばらつきが大きいことが示されている.そこで製造業のトップランナー制度(省エネで性能が優れている機器に基準を設定する)を導入することを提言している.また品目ごとに係数は異なり,スケール効果の有無にも違いがあったが,国交省の指標は交通モードと自/営でざっくり定めてしまっている点を指摘している.

最後にCO2排出量に大きなばらつきがあることを啓もうしている.

感想△

そもそも原単位が理論的に設定されているか少し疑問に思ったので読んだ.貨物鉄道はそもそも排出量が少ないので検討されなかったかと思われるが,そこへの言及が欲しかった.船舶はサンプルが少ないことでスケール効果が確認できなかっただろうと述べているが,たとえ空荷でもCO2は発生するので,単に固定分が大きいためではないかと思った. 各種ばらつきがあるのが啓もうされたので,モンテカルロシミュレーションで結果どれだけ誤差が生じうるのかも面白いかもしれないと思った.そもそも回帰をやるのに,分布の図などがなかったのは残念だった.内容も普通の対数回帰で,論文というよりレポートだった.

 

費用便益分析に基づく公共投資政策の動学的不整合問題

河野達仁,能登谷浩路

土木学会論文集D2006年62巻1号p.32-42

内容

日本では適切に公共事業が行われるよう費用便益分析が導入された.しかし現実問題を考えると,住民が情報の非対称性より,事業が行われることを見越し期待することで戦略的な行動をとり,社会的損益の懸念がある.これを主に金融政策で行われる動学的不整合問題として解き,明らかにすることを目的としている.この問題は,マクロ経済の社会的割引率の視点と,シュタッケルベルゲームの視点がある.方法としては,2つの住宅地と1つの勤務地を仮定した空間で,交通費用や均衡など各種モデルを利用していくこととしている.そこでシナリオとして,片方/両方の宅地へのストック/フロー整備の組み合わせで,4つを比較している.結果としてストック整備では,費用便益分析により不整合問題が起きることが示され義務化が不適切だと指摘している.またフローでも,両宅地の整備では住民も社会も効用が減少する場合が確認された.この場合は特に費用便益分析が不適としている.また類似の問題は,交通投資に限らず公共事業で起こりうると警鐘している.

図は片方の宅地2にストック整備の場合で例示した.Kが投資,Vが効用,横軸のNが人口配分である(図中,左ほど宅地2に集中).N2(K2)は投資に対する人口の最適な投資を表す.またK2(N2)は逆に人口に対する投資で,a’が均衡点である.斜線部は宅地2にさらに投資が必要な領域である.さらに下段のV2(K2)とU2は,それぞれ投資に対する効用と費用便益分析に基づく投資の効用を示す.そのためaがもっとも社会的利潤が大きい.

しかしここで前述のように,住民が戦略的行動をとると仮定する.ここで投資される宅地2へ人口が集中N2’’すると,効用V2(K2’’)が増えると見込まれるため,実際にそれが起こり,対応して投資K2’’も増え,図中bへ移動する.さらに各宅地の効用が不均衡になるので,最終的にその均衡のcで収束する.この時,上段から明らかなように投資が増大してしまう.(各‘は下段に対応している)

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感想◎

数式モデル7つで構成された最適化問題で,経済学も絡み,複雑な関数もあり難しかった.だが時間をかければ理解でき,非常に重要な問題で面白い研究だと思った.

 

オレゴン州ポートランド市の土地利用審査制度における
住民参加プロセスに関わる住民組織の役割と活動実態
ネイバーフッド・アソシエーションを事例として

鶴田佳子,坂本淳,海道清信,西芝雅美

都市計画論文集2017年52巻3号p.544-551

内容

日本ではMPを始め,その提案制度などが導入はされているが住民に浸透していない.町内会のような公的な住民組織も重要と言われているが,研究はあまりない.一方アメリカでは様々な仕組みがある.そこで,特にNeighborhood Association(NA)に着目して,本質的な住民組織の役割や実態を明らかにすることを目的としている.これまでは,本市のプロセスや各機関の連携の利点は示されているが,NAに特に言及せずこれが本研究の特徴である.

レビュー対象事例資料302件や行政資料,アンケート・インタビューを方法としている.

NAの特徴として,規約制定,明確な地理境界,市域のカバー率,任意参加,会費無料,強制なし,オープン性,地域課題解決の目的,市の承認,制度の位置づけが現地の記事であげられている.運営はボランティアで町内会と似ていて,資金は市から補助が入り,大半は郵送・印刷に費やされている.NAは各地域にあるが,面積や人口,土地利用が異なる.

土地利用審査制度がありそのタイプは18あり,プロセスが6つある.これに対し意見などができるが,NAは費用が免除で意見が尊重され重要な扱いになっている.審査のプロセスはタイプごとにコメント期間が14日から71日まで設定される.控訴の可否などにも違いがある.またこの制度の監視を行う諮問委員会もある.調査時点現在で302のプロジェクトがあり,約半数が2番目に簡易的なプロセスで,手厚いものは一割ほどだった.

次にアンケート結果をまとめている.23の団体(24.2%)から回答を得,数は少ないものの地域をカバーできているのでさほど問題ないとしている.NAは郵便やメール,Web,SNSなど広く情報を発信しており,住民に行き届いているだろうと推測している.定期的にミーティングが行われ,その中や事務所に直接意見できるシステムが構築されている.また半数ほどのNAで専門家のサポートがある.専門家の支援やNA役員のリーダシップ,住民の意識の高さはいずれも重要と答えられた.一方,資金の重要性は,資金があるNAでは懐疑的で,ないNAは切迫していた.これには各NAの成立経緯なども関連すると考察している.

最後に汎用的なプロジェクトを例として取り上げている.これは開発許可が申請されたものの既存不適格で却下を求める声がNAや住民から挙がったものである.結果としては,市からは色の変更と使用用途の制限が指示されるのみにとどまっていた.

感想〇

書ききれなかったがかなり詳細に分析されていたのでよかった.最後のプロジェクトの紹介はこれまでと言っていることがやや異なる印象なのが,気がかかりだった.却下にはならなかったが制限としては妥当に厳しいものだと思う.また日本との比較が欲しかった.

 

Re-thinking UK transport emissions – getting to the 2050 targets

Heleni Pantelidou, Gerard Casey, Tim Chapman, Peter Guthrie, Kenichi Soga

Proceedings of the Institution of Civil Engineers Vol. 169 Issue 4, Nov 2016, pp. 177-183

内容

英政府はInfrastructure Carbon Reviewという建設分野のGHG排出量を削減するためのレポートを出した.英は製造がオフショア化し,インフラによるGHG排出が半分ほどで輸送は16%で159MtCO2/yである.そしてこれは輸送機関の使用がほとんどを占める.2010は自動車起因が60%を超えるが鉄道は2%だった.また国際的な輸送は取り決めがあるが,到着側が含まれておらず問題で,補正すると,国際航空は20%を占める.

一方,排出量のみでなく効率も重要で,MacKayの研究を紹介している.旅客輸送についてで,自動車は満載を仮定しているため,実際はより効率が悪い.そのため公共交通へのシフトの有効性が示された.しかしインフラ投資と都市改造,人々への理解促進が必要で,時間がかかることが述べられている.需要と供給をマッチさせるリアルタイム情報が有効と述べている.貨物も同様の傾向で,道路輸送が鉄道に比べ10倍非効率だと指摘している.

都市形態にも言及している.参考文献を挙げ,バルセロナアトランタは人口500万人で同等だが,密集と公共交通により10倍のCO2排出量の違いがあると紹介している.英国内は密集3,農村2,中間5の割合の人口分布で,この中間の都市が重要だといわれている.

政策面ではディーゼルの推進が間違だったと指摘している.一方,渋滞と自動車運用コストの増大で国民の問題意識は深まっていると分析している.統計ではロンドンで400万トリップ/日の自転車があり,短距離のシフトで135ktのCO2が削減されたと試算をしている.

将来の推計は具体的な詳細は図のとおりである.気候変動局などのデータに基づいているものの,ビジネス面の成長は考慮できていない.また建設中の各路線はやはり時間がかかる.また電化が環境に寄与しているが,良好な費用便益なのは60%ほどである.しかし鉄道の排出量は,さらに80%削減が期待される.自動車も各整備で82%削減とされるが,航空は増加とされている.長距離で効率的な事実があり,原子エネルギーも少し言及されている.また世界的に5兆ドル規模で保守的な輸送を打開する補助金を考慮すべきとしている.

戦略的には道路と鉄道を調和させる効率性を述べているが,現実的ではなく,分離して考えなければならない.道路の脱炭素は難しいので,貨物をシフトしていく必要性を指摘している.またさらなる電化は,コストも念頭に置くべきとしている.そしてハブのアクセスと線路容量を確保することが重要と述べている.これにより短距離航空を減らす努めが必要で,またトラックの空きスペースへの課税なども言及されている.

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感想◎

全体としてこれまでの調査などのまとめになっていて,特段新しいことが書かれてはいなかったが,イギリスの現状や展望を知れてよかった.またその中で日本も学ばなければならないところが多々あるなと感じた.

S2

最高速度500km/h

費用327億£,便益340億£

http://www.news-digest.co.uk/news/news/in-depth/8509-high-speed-rail-hs2.html

 

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最後,物流が研究テーマになるかもしれないからリンクだけおいておく.

jp.cointelegraph.com