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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

ゼミ21:スマートエネルギーシステムのレビュー

燃料電池ごみ収集車の走行エネルギー消費解析とさらなる削減の可能性

李 鎬式, 金 秉炫, 廣田 壽男, 紙屋 雄史, 井原 雄人, 山浦 卓也

自動車技術会論文集2018 年 49 巻 2 号 p. 301-306

内容

実際のゴミ収集車(4t)においてFCの実験機を作成し,周南市で実験が行われ,この評価やまとめを紹介している.比較対象に既存のディーゼルを挙げ,また東京での走行特性とも検討している.まず大まかな走行特性から設計部分が紹介された.これを満たすように設計され,車重や積載量はやや悪化したものの実用上問題のない範囲で実現された.これを実際に導入した際の走行データなどの分析を,次に行っている.走行特性として,ゴミを実際に収集する細かい運転(v=27.1km/h, L=171.8km)と,車庫からの長距離の高速の運転(v=4.7km/h, L=28.1km)を分けて分析した.

シャシダイナモ試験から環境性能を比較した.その結果,前者で69%,後者で81%のエネルギー低減効果があった.ここで詳細なエネルギーフローを示しつつ,主に回生(減速時48.1%回収)とアイドリング改善(0.64->0.05kWh)により燃費が向上しCO2排出も改善したと考察している.エネルギー変換効率は,ディーゼルで12.9%,FCで63%と計算された.やはり低速時の効率化の寄与が大きい.

また電源ほかも含めた評価としてWTWを行った.そして総合的に72%削減できたとした.またCO2排出ベースで1.6~1.8倍(120/(67~76)kg-CO2)の燃費向上と推測した.ここで周南市の水素製造の苛性ソーダの0.89kg-CO2/Nmと既往のディーゼルのトータル評価値の2.90kg-CO2/lを参照した.さらにこれらのデータを用いて,走行特性を入力することで車両のスペックを算出するシミュレータを構築した.そして誤差率最大2.8%で再現できた.

さらに今後の転用について検討している.今回は予算などの都合で汎用品を利用し,10kWh,150kWという条件を満たした.だが日産e-POWERトヨタMIRAIのスペック(35.9kW/kg,975.6W/kg,5.7wt%)を導入することで,計170kgの軽量化が可能である.よって0.5%のエネルギー燃費の改善が見込まれた.またギアについても汎用品を適用しており,最適化により3.5%ほどの改善が見込まれた.回生についても最大4.8%の改善の余地があるとしている.総合的にシミュレーションで勘案すると3.4%の削減が推計された.したがって,現在の1.6~1.8倍のCO2排出削減の環境性が,1.7~1.8に向上する結果が得られた.

感想◎

LCVだが日本でのFCの導入例として参考になる部分は大きいと思う.これもWTWなのが特によかった.走行特性ごとに分類された点もよかった.今後の転用部分や水素精製は,“現状”のスペックを考えたが,技術進歩によりさらなる向上も見込めそうだ.欲を言えばそういった不確実性に関する知見・考察もあればよかった.

 

電気自動車(EV)のカーボンニュートラル走行を実現するための条件
―現実的な電源構成シナリオによる発電所からのCO2排出量に関する考察―

畑村 耕一

自動車技術会論文集2019 年 50 巻 2 号 p. 564-569

内容

自動車学会ではWTWでの電源なども含めたCO2評価が少なく,これを補うものである.そこで自動車のパワートレインや電源構成を調査した.まずEVのCO2排出は一般的には,電源の排出係数(gCO2/kWh)に電費(kWh/km)をかけ値(gCO2/km)を求めている.1/2~1/3の改善が試算されているが,使われる電費が実測値と乖離している課題がある.またEVの普及程度により電力需要は変化し,これに伴ってマージナル電源が変化する.これは短・長期的な評価法が,WRI,WBCSDからGHGプロトコルとして示されている.これは発電所の建設・廃棄を含めたLCAとなっている.一般には電源平均の排出係数が使われるが,ここではこの方法を用いた.類似する海外の既往研究では,同様のことが指摘され,マージナルがLNGになるなどしてEVがHEVより却ってCO2排出が増大することが示された.

既往のデータでは電費が乖離しているため,EPAから外れ値などを除き現実的な値を算出した.また燃料は採掘なども含み,電池は製造時のCO2コストが高く,15万kmを寿命として10g/kmとした.さらに電源構成が大きく影響するので,原発がほぼゼロの2012の構成と,原発が半分程度の2030の目標の構成比の2つを考えた.またEV普及時の電源構成比は環境省が試算しており,これを用いた.ここでは余剰としてPVが抑制されていることが示されている.またベースロードの構成などをシナリオで分類した.①現行のまま経済合理性で決まる,②炭素税によりPVが増える,③原発を増やす.しかし②で蓄電設備を増やしてもベースロードは石炭とした.

2030年に1200万台相当のEVにより221億kWhの年間需要(757万kW)が必要と試算して推計した.PV・原発がマージナル電源となると,EVがカーボンニュートラルとなり寄与が大きいとなった.一般的な夜間充電では,火力がマージナルになるので,EVよりHEVの方が効果的だが,昼間の余剰電力が利用可能になることで,大幅な削減可能性が見込まれた.

まとめとして②CO2削減には,余剰をEVに充電するより,その分火力を減らした方が効果的で,充電するのは①経済合理性によるものと分析された.そのため充電のタイミングにインセンティブを与えるのが重要だろうと述べていた.さらに余剰電力はEV充電需要の1/3を超えないように,EV台数を制限すべきとした.

感想◎

電力構成などで本質的な分析でよかった.EV利用が目的に応じ活用法が異なるのは目から鱗だった.火力0が理想だが現実には再エネと火力の共存の検討も必要かもしれない.

 

ビル設備群デマンドレスポンスの広域アグリゲーションWebサービスのスケーラビリティ解析

山田 倫久, 鈴木 啓太, 蜷川 忠三

電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌)2018 年 138 巻 4 号 p. 405-412

内容

電力制御において,省エネとしてのデマンドレスポンスが有効ではないかと考え,これを読んだ.これはやはり電機分野で期待されており,ADR(:Automated Demand Response)という考えがあり,さらにFastADRというものも検討されている.しかし範囲が広範・大規模なためアグリケーションに時間がかかる.具体的には1分以内を目標としているが,それ以上かかる場合があり電気の振動のリスクも指摘されている.しかしあまり注目されていない.そこで待ち行列を用い,このスケーラビリティの分析を目的としている.特に現状では,その重要性は低いことを筆者も認めているが,今後再エネの比率が増し,これが増加すると述べている.

実際に実験はできないので,研究室の100台のコンピュータをビル群に見立て,エミュレータなどで再現度を高めて,実験が行われた.実験に際し,アグリケーションはWebにおいてIEEE1888という通信を用い,待ちはポアソン分布を考えた.この特徴量を実測から求めると到着率λは9.4/s,サービス率μは高速通信で1.46/s,低速で0.82/sとなった.ここでの待ちをNとして与え,ピークを観測し10%を下回ったとき完了と定義した.

50棟レベルまでは実験が可能なため,これと比較し精度が確認された.次に100MWの削減需要を想定した.これは火力発電一基分程度で空調管理だとビル1000棟相当にあたる.

結果,これに直接適応すると,高速の通信であっても761sかかることが示された.そこで並列処理を考えている.40棟ごとにブロックとしてシステムを組むと,30sでほぼ満足できる結果が得られた.最後に全体時間として,アグリケートしつつ全体の抑制効果が出るまでにはさらに時間がかかる.今回の貢献は既往研究と関連させると30%ほどを占めて,そこを1/4まで縮められる可能性が示された.

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感想△

電気分野はデマンドレスポンスくらいしか知らなかったが,様々な概念があることを知るきっかけになった.やはり需要側にも改善点はあるので,エネルギーについても双方向の検討が欠かせないと思った.ただやはり専門外で難しく,その効果も明示的でなかった.

 

大規模ビルマルチ空調設備群の高速デマンドレスポンス集積による仮想発電所の可能性

衣笠 仁, 蜷川 忠三

電気設備学会 論文誌2019 年 39 巻 4 号 p. 20-28

内容

再エネ比の増大による需給バランス制御の難しさにおいても,デマンドレスポンスは注目されているようである.さらに仮想発電所(VPP: Virtual  Power Plant)という概念もある.工場や蓄電池制御が既に示されている.FastADRなどからビル群においても,火力発電のようなシステムでの出力調整が可能かどうか,ここで検討されている.現状の課題として,遅れやそのバラツキがある.需給調整には電気学会よりAGC30モデルが示されている.これは変動型のシミュレーションなどに際し,ベース系を標準化するためのものである.

系統規模としては,北陸・四国レベルの500万kWとし,需要の多い時間帯にPVが一時的に落ち込むことを想定した.具体的には,1hで500MW程度低下するものと考えた.またPVは1000MW規模としている.なお一般需要とPVの落ち込みは,前述のモデルに示されている.また空調の圧縮機は電力と非対称性を有しているとして,既往のAEIモデルを参照した.さらに電力に対する室温の応答を,実際のビル設備5台のデータから参照して連立漸化式でモデル化した.そうしてモデルのフィッティングをした.さらに前述の論文と同様,各通信やネゴシエーションの遅れを再現したモデルを構築した.ただし待ちは考慮していない.そしてモデルのシステムとして,5台の違いを反映しつつ,ビル400棟設備6500台規模を考えた.またアグリケータのサブシステムをNv個とした.通信には同様にIEEE1888ベースに遅れや実際のタイミングを0~60sで,一様分布で与えた.さらに系統監視システムとして,総需要・総発電量・PV発電量やアグリケータの応答を示すモニターを現実に倣って設けた.アグリケーションは室温を26~30℃まで400段階に色付けして分類し10sおきに対応するものとした.

結果,5000MWというガスタービン一基分の削減(VPP換算)効果が試算された.効果の良否については,周波数誤差より計算された.火力で調整するものとVPPでCaseA,Bを用意して比較した.すると両者に大きな違いは見られなかった.そしてPVの発電量の低下に合わせて対応できていた.これは計画中の応答時間5分以内が目標の2次調整力に対応できる即応性を示している.

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感想〇

参考文献に蓄電池を仮想発電所として考えるものが紹介されていたので,これは研究室として面白そうだと思った.またモデルも参考にできそうだと思った.

 

空調機とエンジン発電機を統合した電気自動車を用いた再生可能エネルギーの 有効利用方法

戸村 善貴, 中川 二彦

自動車技術会論文集2018 年 49 巻 2 号 p. 453-459

内容

需要調整としてのPV&EVスマートシステムの全体のCO2排出と経済性の分析を目的とした.これは現状の一方的な調整から,双方向が可能になり,また不安定なPVはじめ再エネを,汎用的にEV・熱水熱・水素に変換し,家庭のエネルギーの年間規模での平準化を図るものである.今回考えるシステムとしては,まずEVの充電に充て,余りを随時熱,水素へと変換するものとした.EVは小型エンジンを積んだ空調統合型EVを考え,運転開始直後の負荷の低下分を利用する目的がある.

具体的には,2台のEV(Cap:13,21kWh)を導入し,熱,水素については,ケース分けした.またPV(190W/m2)の面積は駐車場面積をベースに,各ケースで必要な発電量から逆算された.するとそれぞれ4,27.5,35.5m2となった.通勤は実績値の往復28km/日を用いた.勤務先も電源に含まれた.

結果として,まず現状のベースシナリオについては,単年で系統からの電力が15180kWh,1310l-ガソリン,360kg-LP,160l-灯油の結果が出た.PV・EV導入のCase1では13790kWhに減少した.EVのため需要は1180kWh増加したが,PV発電で打ち消された.さらに熱システムを導入したCase2は11390kWh,水素システム導入のCase3は10090kWhと減少していった.これらの代替によりCO2が48,75,83%削減された.

これらを現状の各価格から経済性評価した.するとCase2ではBase比で40万円/年の効果があった.さらにシステム導入費と比較した.なお置換ではなく,各新品購入時の価格差より求めた.すると345万円と試算された.単純投資回収年は8.6年となり,減価償却を14年とすれば,内部利益率は高く7.3%となった.なお水素についてCase3も用い計算したが,水素の熱効率は非常に高いものの設備費が非常に高く,単純投資回収年は最低37年となり,経済性が非常に悪化した.しかし効率性のほか,ほかではできない季節変動に強くなり,その利点を筆者は強調し,そのための政策的な施策が必要だろうとまとめた.

感想◎

ステマティックで面白かった.もう少しPVの性能差の比較があればよかった.エネルギーの利用先も様々あるので視野を広く持とうと思った.

 

Well-to-wheel driving cycle simulations for freight transportation: battery and hydrogen fuel cell electric vehicles

Giulio Guandalini ; Stefano Campanari

2018 International Conference of Electrical and Electronic Technologies for Automotive

内容

道路貨物輸送用のトラックについて,ディーゼル(ICE),BEV,FCVでの比較をWTWで行った.車重は幅広く3.5,5.2,18,44tで与えた.運転特性として,FIGEとHUDDSというサイクルを与えた.いずれもEUなどで導入されたもので,加減速が多く30分ほどのトリップモデルである.なお航続距離は別で車体毎に250~600kmを与えた.パワートレインは細分化し,現行のものを参考にして,各効率を厳密に与えた.バッテリーも140kWh/kgを参照した.水素タンクは幾何的に式から求めた.さらに摩擦・空気抵抗,路面傾斜,回生も厳密にモデルに組み込んだ.

結果として,エネルギー消費で比べると,ICE,BEV,FCV(H2),FCV(El)となった.特に小さな車ほど顕著であり,運転特性にも敏感な差が表れた.TtW(:Tank to Wheel)では最大2倍の差が見られた.また燃料タンクによるペイロードの圧迫を従来と比較した.するとBEVに厳しい結果となった.特に距離が伸びると50%まで圧迫された.そのため経済的に非常に不利となる.FCVは最大20%で,影響は軽微で,電化により正当化できるだろうとした.

さらに環境影響の評価をした.燃料のほか,これをさらにどのように充電するかで細分化した.するとこれではBEVの方が優位だった.電源が再エネ(RES)の場合は,生産・排出ともに非常に環境にいいという一般的知見が確認された.ただし長い航続距離か,従来のエネルギーミックスにより相殺されてしまう.

FCVは水素の精製に大きなエネルギーが必要で,これが障壁となった.そのためやはりこのブレイクスルーが必要と考えられる.さらに水素という燃料の分配での効率も,課題に挙がった.具体的には書かれていないが,水素ステーションや新規で必要なインフラの影響と考えられる.RESが考慮されない場合,従来のディーゼルとGHG排出はほぼ同様と分析された.ただいずれも同じトンキロを考えた際,必要なエネルギー量はICEより小さいと分析された.

また車種によらず傾向は一致し,輸送において電化後も,依然として規模の経済が示された.

まとめとして,BEVは小型車が夜間に充電するのに最適で,長距離はFCV,バイオディーゼルに代替すべきと述べている.またRESによるFCVが,CO2の観点から最も望ましいとした.

感想◎

エネルギーからお金まで非常に細かく分析されていてよかった.

 

蛇足

久しぶりの日本語5本はなかなか.英語のが案外読みやすいような気がしてきた.次回は今週やろうとしてできなかった非接触充電とかやろうかと.