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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

ゼミ?:環境に福祉的であれ

10月は日経記事をあまり見ておらず,月の制限を使い切ってきた.

水素などの新技術にはコストがかかり、当面は欧州企業が競争力で不利になる恐れがある。環境規制の緩い国から安価な製品が欧州に流入する懸念があるが、それを防ぐためにEUが検討するのが「国境炭素税」だ。

環境対策が十分でない国からの輸入品に事実上の関税をかける内容だ。欧州企業が抱く高い排出減目標への不安に応える狙いがあり、EUは公平な競争条件の確保に必要として、遅くとも23年までに導入する。

「60年までにCO2排出量を実質ゼロにする」。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は9月の国連演説で強調した。努力目標とはいえ、踏み込んだ目標設定に他国の政府関係者は驚いた。

(中略)

水素社会の実現も急ぐ。中国政府は9月、燃料電池車(FCV)の販売補助金制度を撤廃し、中核技術の開発企業に奨励金を与える制度を導入。FCVは技術的な難度が高く、当面は技術開発に対して直接財政支援する必要があると判断した。

(中略)

日本は計画をどう実現するのか。まず再生エネの普及の制約となっていた送電網を増強する。出力が不安定という再生エネの欠点を補うため、大容量の蓄電池の量産体制を整える財政支援などにも取り組む見通しだ。

(中略)

再生エネの普及を支えるのが蓄電池だ。電気自動車(EV)の性能に例えると、今は1回の充電で様々な工夫を凝らして500キロメートルを超えて走る車種がようやく出始めたにすぎない。30年ごろの実用化が待たれる次世代蓄電池に求められるのは、1回の充電で2倍以上にあたる1千キロメートル超の走行を可能とする性能だ。

(中略)

蓄電池の進化で、EVはより長い距離を走れる。トラックなどの物流も電化が進み、脱炭素が可能となる。こうした蓄電池や再生エネの技術は互いに連携して実用化を進めることが不可欠だ。

脱炭素へ大競争時代 中国は水素奨励、欧州は新税検討 :日本経済新聞

炭素税は今後拡大していくだろう.関税に似たシステムとして導入するのは興味深いし,EUのブレーンに感心だ.

ただ転じて日本ではどうだろう.環境理解も他国と比べると遅れる印象を受ける.ESG投資やそうしたコーズマーケティングも見られるが勢いが弱い.菅総理の実質ゼロ・エミッション目標にも懐疑的な見方が大勢に見える.炭素税を導入しようにも,メディアを皮切りに増税としてのアレルギーが懸念される.

 

数年前まではPM2.5で環境が著しく悪かった中国だが,ここのところは環境面で国際的なリーダーシップ的立ち位置へシフトしている印象がある.上述の日本の現状と比べれば,この点においてはどちらが先進国なのか分からないレベルだ.EV発売台数も国際的にリードしている.

これは中国共産党の強大な権力の為せる技だろうか.ただ単純に地球環境を思いやってとは見えない.おそらく人口減少や高齢化で,中国の国際競争力の漸減の中で,新産業と国際的立場の確保を目論むものと見える.比較される米国やBRICsは,環境面ではタジタジであるのも中国からは好都合だろう.

 

ただEVで輸送分野の環境問題がすべて解決できるわけではない.記事にもあるように,航続距離が短い課題がある上,大型車への適用は難しい.これは自身の研究テーマにも関連する内容だ.日本の乗用車市場への浸透には,価格の低下(またはエコカー減税の拡大,ガソリン車への規制・増税),航続距離増加などの利便性の向上が欠かせない.

これは日本がこと環境分野に限って,夜警国家的姿勢なこともある.ぶっちゃけ社会保障ことさら高齢者には福祉的なものの,労働者や若者にはその限りでないのがあべこべだ.とどのつまり,政財界へのコネと,投票率の結果だろうが.

福祉的

  • 高齢者
  • 医療
  • 大企業:法人税
  • 保育:最近

夜警的

ゆえに日本の政策には目先を追ったものが多い印象を受けるし,持続可能性は疑問だ.新時代に対し逆行した姿勢だ.

イデオロギーに話が逸れてしまったが,国としての長期的な国力を持続可能性として考えたとき,環境をはじめとした分野に夜警的なことには,近いうちにツケが回るだろう.もっともその負担を追うのは,未来の日本国民,すなわち私達なのだが.

 

 

トヨタは「歓迎」

中国の施策をトヨタのある幹部は「非常にありがたい話」と話す。FCV開発で先行しているのに加え、モデル地域に指定される可能性が高い北京や広東省に多くの協力企業があり、連携拡大が期待できるからだ。

(中略)

部品メーカーにとってはトヨタが中国市場で成長すれば、自社に有益。ただ、中国が産業集積で先行すれば、いずれ現地メーカーが強力なライバルにもなりうる。トヨタグループの幹部は「中国の勢いをみると心配になってきた。日本もより力強い政策を期待したい」と語る。

中国FCV、地方政府が育成 日中の集積格差に警戒も :日本経済新聞

FCVといったらMIRAIを有する天下のトヨタ様.テスラのショックはあったものの,今後も継続的なCEV(Clean emission Vehicle)製造により,強固な老舗メーカとして君臨できるだろう.

ただ記事にもある通り,中国の台頭には恐怖もある.技術的ハンデがあろうとも国家ぐるみの取り組みは強固だし,サプライチェーンを抑えられては主要産業として本末転倒だ.トヨタと同様に傘下の部品メーカもEVシフトへの柔軟な対応が求められそうだ.

 

日本エネルギー経済研究所日揮ホールディングス三菱重工などはサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコと組み、同社傘下の石油化学工場で生産したアンモニアを日本に運ぶ実証事業に着手した。アンモニアを石炭火力用のボイラーなどで混ぜて燃焼させると、CO2発生量も減らせる。日本勢とサウジはサプライチェーンを整備し、30年代の本格利用につなげる考えだ。

原発頓挫、重電が探る新天地 インフラ・水素に賭ける (写真=ロイター) :日本経済新聞

なるほど.水素を燃料電池ではなく直接燃焼させる検討は見たことがあったが,アンモニアの燃焼は灯台下暗しだった.

2NH3 + 3/2O2 → N2 + 3H2O

確かに排出も窒素と水だけで非常にクリーンだ.水素の化学的ポテンシャルの高さの課題を超えるにもちょうどいいかもしれない.

実際に水素キャリアとしての期待も高い.ただキャリアにアンモニアを使っても変換の効率がネックになる懸念もあり,直接使った方がいいだろう.燃料電池では利用できないものの,前述のように直接燃焼はその限りではない.

毒性を持つものの刺激臭を持つ特徴も好都合だ.

 

これを車にも使えないものかと調べてみたところ,興味深いものを見つけた.既存の化石燃料の燃焼における排出物として課題なようだ.

車にアンモニア対策、次期排ガス規制ユーロ7 リッチ運転禁止へ | 日経クロステック(xTECH)

さらにアンモニアを燃焼させるにも,一部が未燃焼で排出されてしまうため,単純にシフトはできなそうだ.ただエネルギーキャリアとしての優位性(液化水素)は示されたようだ.

水素エネルギキャリアとしてのアンモニアとレシプロエンジン燃焼への適用

 

 

下の記事のように東北や北海道は人口密度の低さに加え,再エネのポテンシャルが高いことから,需要の高い関東圏の再エネの産地と期待されている.そこで送電網が課題となっているため,増設が進んでいくようだ.

再生エネ普及へ地域間送電網を複線化 :日本経済新聞

ただそうした既存の枠組み以外の検討にも期待したい.例えば電気を大量に消費するものの都市近郊の必要性の薄い施設そのものを東北に誘致するとか.既に検討が進んでいるかもしれないが,サーバやスパコン向けにそういった補助金があっていいだろう.

地方の新たな産業支援にリフレーミングもできる.