はじめに
つい先月までは万年在宅で最高の社会人ビギナーライフだったが,異動とともに出社となってしまった.
いざ出社してみると,福利厚生的なサービスとか純粋な同期らとのオフのコミュニケーションにも楽しみはあった.
また出社に伴い,アフターシックスで寄り道できるのもプラスと言えばプラスだった.
今回はそんなエピソード.
とはいえ9月中は緊急事態宣言下なので多くの施設もあまり長くはやっていない.
そんな中,ぐるっとパス対象施設内にも,中央線方面の各施設は長めに時間がとられていたので,平日夜に実質無料で立ち寄った.
武蔵市吉祥寺美術館
1つ目は武蔵野市吉祥寺美術館.
今回は木彫りの動物が企画展となっていた.
浜口陽三
また写真撮影は禁止だったものの,浜口陽三の銅版画の展示もあった.
浜口作品は日本橋,箱崎のその名を関したミュゼコレクションに詳しいが,本施設でもその一部を楽しめた.
こちらの感想を先に述べると,小ぶりな展示室で作品もおおよそ葉書サイズながら,そこに細かい奥深さの繊細さがあった.
特に展示室奥には蝶の作品を刷った色ごとに並べられており,額縁が窓のようで,あたかもその向こうの外側に蝶の舞う庭が広がっているような錯覚も抱かせる,配置的技巧も相まって,非常に面白く美しかった.
加えて銅版画の作成技法についても,簡単にまとめられており,そうした背景を抑えながら,作品に向き合える配慮も評価できる.
この点は印刷博物館の内容も少し思い出させるものだった.
なおこちらは撮影禁止だった.
以下に企画展のものを抜粋して載せる.
はしもとみお 木彫展 いきものたちの交差点
木彫りでありながら,その自然的な柔らかさを感じさせつつ,やはり裏には木としての硬さも.
またこれは作者の器用さに依るところか,ノミの跡と毛のふさふさ感が絶妙な相性を感じさせる.
以下から作者の動物好きが容易に伺える.
イソップ物語絵噺
最後にイソップ物語を元にした絵噺の展示も.
独自のやや暗い作風が原作にもあっている印象だ.
その中で陳腐な感想だが,葦と橄欖には柔軟性に学ぶところがあったりと,全体的に啓蒙的だ.
そうした解説の語り口も面白い.
動物をモチーフにしているという点では,鶏と卵が逆かもしれないが,もののけ姫的な雰囲気も感じる.
旅と本屋
埼玉県民ながらわざわざ吉祥寺方面まで馳せ参じたので,せっかくなので気になっていた隣駅西荻窪の「旅の本屋のまど」という本屋へ.
店名からも分かるように旅行系を専門としつつ古本も扱われている.
店内を見回すとコロナで自粛を強いられているものの,そのタイトルや書影から旅行欲を強く誘う.特に海外.
しかし改めて本屋に向き合ってみると,現在はECでほとんどが手に入るし,ポイントなどの都合,そちらのがお得というところもある.
ただこうした店内でのセレンディピティとも言える出会い感は,やはりオフラインに大きな軍配もあるので,優劣の問題でもないか.
しかしやはり新品はこれが頭をよぎってしまった.
結局絶版になってしまったらしい,小洒落たオランダの旅行本を一冊購入した.
他にも世界のチーズ辞典やロカスト長崎,国内のダークツーリズムを扱ったものなど,面白そうなもの多数だった.
そういえば本といえば,読書の秋ということもあり,例年神保町で古本まつりが想起される.
今年もコロナで中止のようだが,ある意味で助かる気もする.
積読が消化しきれない中,所得水準が向上したことで,軽く5万円くらいは安易に買ってしまいそうだからだ.
三鷹市美術ギャラリー
また別日には同一方面の三鷹市美術ギャラリーへ.
デビュー50周年記念 諸星大二郎展 異界への扉
正直なところ彼はこの企画まで全然知らなかった.
しかし展示を見ると,どこかで見たことがあるような作品も.
これが勘違いだとしても,その展示自体は非常に面白かった.
具体的な要素としては,博物学的な民俗学的な教養学部的要素が詰め込まれている点だ.
こうした背景もあってか,諸星の原画などに留まらず,参考資料であった各地域や各国の古典や鉄器なども一部展示されていた.
また作者の交流範囲も注目されており,岡本太郎と交流もあったとのことで,そうした展示も一部あった.
目録の時点で気づくべきだったが,これらが思いの外かなりのボリュームで,アフターシックスだったこともあり,時間がなく展示後半はほとんど流し見になってしまったのが残念だった.
市の施設だと正直舐めていた.
妖怪ハンターはそうした主題を起きながら,短編的構成になっているようで,展示中の断片的コマやページでも面白かった.
現代の漫画ひいてはコンテンツ全般は概ね長期的ストーリーが重視されている.
その点こうした作品は,どこでもキャラの一貫性が保たれ,どこからも読めるという点で触れやすいか.
こうした点は期間限定無料公開しているこち亀や,その他国民的覇権になった古めの漫画全般に言える.
スピリチュアルな風で浮世離れした伝説的エピソードでありながら,どこか学術的で啓蒙的なバランス感が面白い.
現代の娯楽が高度化し,純粋な構造が重視され,古典や歴史的面白さがかるんじられる時代で評価を得るのが難しいであろうことは,個人的に嘆かわしく思える.
私自身,少ない海外旅行経験も相まって,文化人類的多様性の重要性を絶望の谷として実感し始めている次第だ.
特にアジアや南米,アフリカは情報発信が少ないこともあって,それぞれのブレイクダウンした個別の特徴は知り得ない.
このあたりは最近読んだ本に,日本の大和民族の単一民族国家的弱さというファンダメンタルの影響も記述されていたと記憶する.
考察を深められ,新しい分野の道が拓けるこうした行動はやはり面白いというところで,筆を置く.