AOKI's copy&paste archive

高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

ゼミ11:インフラ計画について

地方都市の公共交通ネットワークの利便性評価手法

奥田大樹,渡邉拓也,深澤紀子,鈴木崇正,榊原弘之,中村優

鉄道総研報告 RTRI REPORT Vol.32, No.12, Dec. 2018

内容

PT調査などの資料がなくとも,地方都市の公共交通ネットワークの利便性の定量評価ができる手法を構築し,現状の施策を評価することを目的としている.対象は三大都市圏外の30万程度までの都市としている.

評価式は,アクセシビリティ区間重要度,時間重要度の積で表される.これを区間ごとに行い,また施策の前後と評価値を相対比較するものとしている.まずアクセシビリティはロジットモデルをベースとしたログサム変数となっている.なお地方の交通は,朝夕は通学が多くを占めるなど状態が大きく変わるため,出発時間帯に応じて調査を行い,モデルに反映している.次に区間重要度は,人々が様々な移動をする中でも,拠点間や居住地により,特性が異なる.これを反映するため,国勢調査や経済センサスを用いたものである.最後に時間重要度は,時間帯に応ずる重要度で,前述の通学などが例にあたる.なお区間を定義づけるためのメッシュは250m四方をベースとしつつ,土地利用に応じ500m四方も導入している.また移動自体は,インフラ整備が進んでいるとして直線近似している.

ある1都市でケーススタディを行っている.ここでのデータ収集としては,学校で生徒へのアンケート,一般へ駅,バス停でのアンケ―トとしている.それぞれ1000件程度で,個人属性と居住地を共通で聞き,生徒には仮想選択問題を課した.休日も行ったがここでは平日に関してのみ述べている.結果,生徒は距離によりモードが異なることが確認された.仮想選択問題を通じ,中距離帯の5㎞ほどでバスと自転車が競合していること,長距離の鉄道はそれがあまりないことが明らかとなった.また駅での一般へのアンケートでは,回答者の半数が免許を保有していた.彼らは定時性や距離から,合理的な判断を行って利用する傾向にあると分析している,一方バスについては,自動車の優位性は極めて高く,高齢者の特に女性の利用が多く,調査の半数を占めた.しかし乗換などの利便性の高いものは,利用される傾向にあり,利便性の改善により,利用の増加を見込めるだろうと考察している.なお通学は親の負担,高齢者は割引がある点には注意がいる.

現在,GISやダイヤ情報を組み込んだ公共交通ネットワークの利便性評価システムを制作しており,今後は様々な改善案のシミュレーションを行いたいとまとめている.

感想◎

目的で記述されていたことまで行えておらず,研究途中のものではあったが,内容は非常に興味深かった.いずれの分析もロジカルに行われており,その点はよかったと思う.またデータ収集も丁寧だと思った.

大都市圏向け統合モビリティサービスMetro-MaaSの提案と需要評価
自動運転車によるオンデマンドバスと既存公共交通の将来的な統合を目指して

藤垣 洋平, 高見 淳史, トロンコソ パラディ ジアンカルロス, 原田 昇

都市計画論文集2017 年 52 巻 3 号 p. 833-840

内容

まずMetro-MaaSとは,自動運転の評価とは独立して,それも含めた都市圏での公共交通の一体的提供として考えている.これを提案,需要の特性を評価することを目的としている.

そして既存のMaaSや文献をまとめている.既存の都市は,主に小規模な都市であり,大都市での導入にあたっては事業者の多さが課題で,これを抑制しつつ利便性を担保するカバーが必要となる.そこでタクシーやバスなどと鉄道に分割している.既に鉄道の定期券はメジャーなため,タクシーなどが加わる点が特徴となる.そこで主に自動車利用を消極的に利用している層を対象とする.彼らの多くは,運転に不安や経済的負担があり,駅からも遠くこの利用を見込めるためである.これらを中心にWebアンケートと検証を行った.

楽天のサービスを用い,600人を国勢調査と一致するように調整し,東京都心から50㎞圏までの住民のデータを収集した.そこで現状の交通モードや免許,仮想選択問題を課した.そこで基本料金が\8000/12000/16000,技術の発展に伴うオンデマンドの有無(A/T)などと変えた複数のプロファイルの利用意向を質問している.

結果として,好条件の設定において,2割程度の利用意向が得られた.全体の傾向として,運転に不安がある層や,駅まで徒歩20分以上かかる層,家庭で複数台自動車を保有している層において,利用意向が多い傾向が見られた.また個人属性に関しては,40歳以下の女性や短距離を週3日以上利用する層,自宅外フルタイム就業者で,利用傾向が多く見られた.これらを踏まえ,加入の有無を二項ロジットモデルで推定した.結果は前述の変数が概ね5%有意で推定された.

またモーダルシフトについては,回答からTシナリオでバス/タクシーがそれぞれ1割から4,5割へ移行する結果が得られた.また日常的な自動車利用の減少も見られた.ただしトリップでの分析ではないのは課題である.また供給側の混雑や中長期的な居住地選択の問題もある.なお料金は,都市の均一区間が200円ほどで月額5000円ほどとなり,総合化することで概ね妥当な値であり,事業者もこの金額を目安にキャンペーンを行っている.

感想〇

好条件であっても,加入が2割ほどというのが気がかりだった.駅近は既存の定期券の可能性が高く,また中距離でも自転車と組み合わせる人もいると思う.これらを含めて,自動車利用がどうなるかが詳細に分析されていれば,よりよかったと感じる.しかし実際には学生もより多く利用する可能性が高く,期待したい.

 

鉄道貨物輸送とトラック輸送との特性比較
―規模の経済の推定と生産性比較を中心に―

橋本 悟, 小澤 茂樹

交通学研究2010 年 53 巻 p. 115-124

内容

環境問題の台頭からモーダルシフトが求められる.鉄道での長距離の貨物輸送は,トラック輸送よりもコスト面で優れ,規模の経済が働くものと認識されている.また環境についても優れている.しかし実際は,運送の質などのミクロ的なものも求められる.これら両者の特性を明らかにし,比較することを,目的としている.ミクロの指標は,マクロデータをベースに(Total Factor Productivity: TFP)を用いている.

まず現状の分析を,国交省のトラック輸送報告書などから行っている.品目ごとの分析では,セメントや油などは概ね400㎞までの輸送がほとんどで,鉄道へのシフトの優位性は低いとしている.なお政府の議論によれば,500㎞の一般貨物を主な対象としている.次に鉄や木などの原料である.これらはいずれも500㎞以上で20万トンほどあり,優位性が特に高いとしている.最後に食品類であるが,これも同様に長距離も多いが,輸送には冷蔵が必要な場合などもあり,その点の質などが難しいだろうとまとめている.

TFPは運輸鉄道会社のデータから,各種コストを実質化して分析した.規模の経済は,トランスログ型費用関数(長期費用関数)を用いた.図の横軸はトンキロ,縦軸は平均費用であり,また推定結果より総費用の数量弾力性は0.746で,鉄道貨物輸送に規模の経済があることが確認された.

TFP上昇率をそれぞれ計算すると,ここ20年(1992-2006)ではトラックの方が,値が大きく優れていることが認められた.これは事業内部の効率性を総合的に示す指標である.そのため事業者が顧客のニーズに併せ柔軟な効率化を行ってきたためだろうとしている.

感想◎

2つの指標からいずれも一長一短な面が示されていて面白かった.当時はトラックの運転手不足などの問題はなかっただろうから,最近のデータでは違う結果が出てくると考えられ,その点も興味深い.列車通行料の低廉化と道路のインフラ投資も含めて比較してみたいとも思った.

 

Sustainability cost curves for urban infrastructure planning

Daniel Hoornweg, Mehdi Hosseini, Christopher Kennedy

Civil Engineering Volume 171 Issue CE6

内容

世界的都市インフラの支出は2050年までに老朽化工事などのため3倍になると予想されている.国際的にはSDGsなどが定められ,目標内で行う必要があり,そのアプローチを示すことを目的としている.

京都議定書の際は,国がCO2削減のためMarginal abatement cost curvesを開発した,類似して,筆者はSustainability cost curveを開発した.縦軸はコスト,横軸のバーの幅は持続可能性向上の機会SP(Potential)である.これは代替案の概要を提供し,優先順位の適用を助ける.コストは建設費や利用者便益,利用者数,供用開始時期,2050年の残存価値などを総合的に勘案して,それぞれ求められている.SPはsustainability indicatorの推定値に,14カテゴリで等しく重みづけされた総和で求まる.

これをトロントの交通プロジェクトに適応し,個々のプロジェクトの効果を示している.さらに上海など他の5つの都市プロジェクトとの比較も行っている.トロントのプロジェクトは,図のように9つに分類される.左端の地下鉄での90分以内の移動は,比較して非常に少ないコストで実現できることが示された.バスの高速輸送(青緑)は非常に大きな効果が見込めるが,電気自動車の30%以上の導入(緑)をベースとしている.

インフラの工事において,この指標などが環境アセスだけでなく,経済的,技術的な場面で評価され,政策立案などに使われるべきだろうとまとめている.また最後に付録として,SDGsの目標ごとのトロントのプロジェクトの影響を表にまとめている.

f:id:pytho:20190907115548p:plain

感想◎

事業ごとの費用と効果が分かりやすく示される指標が開発されていて良いと思った.これにより,確かに優先順位をつけるのを助けるだろうなと思った.事業ごとに費用・便益が大きく異なり面白かった.ただあまり見慣れない図の形式で,横軸が少しわかりにくかった.

 

大都市圏スケールでのインフラ維持管理・更新費用の将来推計手法の開発

小瀬木 祐二, 戸川 卓哉, 鈴木 祐大, 加藤 博和, 林 良嗣

土木計画学研究・論文集2010 年 27 巻 p. 305-312

内容

コンパクトシティ施策の根拠の1つとして挙げられるインフラの維持費が,どのように変化するかを,実都市をベースに考えることを目的としている.またそこで広域的な複数の自治体での範囲での適用を,名古屋圏をベースに500m四方のメッシュで行う.

コーホートモデルの適用を試みたがデータの制約上,2050年までの45年で各一回の更新があるとした累積費用を求めることとしている.ここで国道は,ネットワークの機能もあるため,市道や水道の全面撤退を考える.なお2006現在で建設済の構造物を対象とし,それ以前の投資は計算に含めない.計算には環境省などの原単位をベースに考える.

まず名古屋圏20㎞圏内の現状を簡単にまとめている.DID面積の増加に対し,人口密度は減少しており拡散の傾向が確認された.しかし1990年以降は,いずれも横ばいにある.また分布としては,概ね鉄道沿いにDIDが広がり,郊外には高蔵寺桃花台などのニュータウンもある.道路は国のデータを,水道関連はデータを得るのが難しく市町村や県のヒアリングおよび部分的にモデルの推定から行っている.具体的には道路下に水道整備がされるかを,二項ロジットモデルを用いている.ここで決定係数は0.712で,説明変数は主要道路かと建物数である.ただし整備の進む名古屋市をベースにモデルを作り,郊外の市町村へ適用しているため過大推計の可能性がある.

総インフラ費用を,面積または夜間人口で除した値をGISでプロットしている.また駅から800mの圏内と圏外で1人当たりの費用を分析している.名古屋市では駅圏内の方が高いのに対し,ほかの市町村では駅圏外の方が高い.これは都市部で集中が起きているのと,郊外で拡散が起きているためと考えられる.また線引きでの比較も行い,市街化調整区域で費用がかさむことが確認された.

また市街地集約について分析を行った.これは夜間人口の少ない地点から人口を漸次移転させワイブル分布を基にしている.費用のかさむ土地の上位n%から撤退するとして計算を行った.その結果,2040年まではn=80までのすべてのシナリオでインフラ維持費がゆるやかに増大している.その後n=40以上で2050までに減少に転じ,n=80では2010年の維持費を下回る結果となった.なおここでは,夜間人口ベースのため,都市部も撤退地域に含まれてしまっている点が課題としている.

感想〇

よく言われているが根拠がないこともあったので,有意義な論文だったと思う.維持費の削減にかなりの思い切りが必要なことが示されていて驚いた.そもそもDIDを減らしていく必要があるので,行政がそれをスムーズに行えるようにしなければならないと思う.

 

まちづくりワークショップの合意形成機能に関する研究
鎌倉市都市計画マスタープラン策定過程に着目して

錦澤 滋雄, 米野 史健, 原科 幸彦

都市計画論文集2000 年 35 巻 p. 841-846

内容

合意形成には紛争/平和状況がある.平和では住民の関心が低く,合意形成の場が作りにくいため,本研究ではこれに焦点を当てている.そこでの都市マス策定でWSが機能を果たしうるか明らかにすることを目的としている.

まず概念の整理として,WSでは対話と体験があることが特徴としている.その中で対等性,共有化,柔軟性を挙げている.これらを満たした鎌倉市の事例を選定した.市民参加者は最高で91人である.94に計画が始まり1998のMP策定まで,主に1996にWSは全4回が行われた.詳細としては,ラフなKJ法がとられた.その中で対立解消,要点抽出,要点選択の結果に類型化している.なお意見は計2000に及び,まとめにくい一部は切り捨てられている.

事例をまとめると,対立解消に至っているものは,全体の4%で非常に少ない.交通や緑などの話題が上がり,比較的小規模なものは解決に至りやすい傾向に見られた(それでも17%)が,広域的なものはそうでなかった.都市マスの意義を考えると,意義が薄いと考えられる.これは抽象的なテーマで議論が難しい点が挙げられる.要点抽出については,防災,ゴミ,デイケアなどソフトなものが多く挙げられた.一方,景観や観光,土地利用規制と権利については議論が深まらなかった.都市計画の核となる部分であり,WSを行う上での今後の課題とまとめている.ただし小規模な地域での話題では,一定の成果が得られたと考察している.また緑に関しては,最終的にはまとまらなかったものの,たびたび議題に挙がるなど関心の高さがうかがえた.

また各回を考察している.第1回は課題の明確化ということで,その目的を概ね達成できただろうと評している.一方,第2回は地域単位の目標設定のため行われたが,実現の方法まで話が及び,そこで専門性が高まったこともあり,発散して終わる結果となった.第3回は市全体がテーマとなった.自由討議であり,本来の趣旨と異なる記述もあった.さらにグループ内での議論のみで,その後の共有などが図られなかったため,対立解消が有効に行われなかった.最後の第4回は,これまでのものを基にたたき台として,MPの中間案が作られた.しかし全体的な話というよりかは,詳細な変更に関する議論が多くを占めた.

感想〇

WSの問題点がよく示されていると思った.パフォーマンスの面が強くあまり有意でなかったように感じる.ガイドラインが示されるべきだと思った.