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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

グリーンインフラと水資源

このところ気候変動がいよいよ確定的になり,水害が世界規模で酷いので,書評も兼ねて記す.

書評というのは下記でも示した決定版!グリーンインフラ | 東京工業大学附属図書館 蔵書検索

pytho.hatenablog.com

最近の氾濫

水害で最近で身近なのは九州の梅雨前線の活性化だろう.ただ日本のみならず中国本土もダムが変形するほどの大変な事態なようだ.コロナの混乱か,中国へのヘイトの増加のためか報道が少ないのが気がかりだが.国家的対立があろうとも,災害時の助け合いは必要と思うのだが.

水害防止と災害救助指示 中国主席、大雨で (写真=AP) :日本経済新聞

こうした激甚化に対して,とるべき対策はどのようなものだろう.降水量の増加に合わせてダムの容積を増やすべきだろうか.答えは否だ.特に日本においては国土的にもう余裕はほとんどない.予算も同様だ.

対応策:グリーンインフラとは

しかし策はある.それがグリーンインフラだ.ダムがコンクリートの塊でグレーインフラとされるものに対する対極的ものと言える.ただ定義はまだはっきりしていない.ただ一点共通しているのは,生態系の本来の力を借りて効率的な施策を行うことを目的としている点だ.

この考えは同様の問題を抱え環境意識の高い欧州が先行している.欧州ではグレーインフラが殺風景で冷たく支配的だったグレーインフラに対する,アンチテーゼ的ニュアンスが強い.これはダムのみならず,都市の舗装などの身近にも及ぶ.そこで複合的機能として都市活動的な公園のようなコミュニケーション的視点も強い.

アメリカでは毛色が若干異なる.グレーインフラとの差別化は同様だが,治水の色が強い.これはタイフーンや合流式下水道などの環境的要因の影響も多い.この点は日本の開発の古い大都市でも同様だ.そこで都市の貯留機能などに再注目して,雨庭や透水性舗装がEPAから提案されている.

日本も同様の課題があり参考になる.ただ既存のグレーインフラが土木の専業であり,さらに単体の機能のみ求められたのに対し,グリーンインフラは複合的で難しい.

ダム:治水

遊水地:治水,生態系保護,オリエンテーション:教育,,

多目的ダムというものもあったが,さらに環境へ広げた形だ.

難しいというのもオリエンテーション機能の定量評価は既存のフレームワークでは行えない.そのため横断的協力:リフレーミングが必要になる.これは今後,日本社会をベターに運営していくにあたり非常に重要になる視点だ.このパラダイムシフトが起こせなければ,人口減少に伴いさらなる衰退は不可避だ.

逆にグレーインフラは救世主たり得る.ただこれは時代に逆行しているきらいもあるのが難しい.裏を返せば歴史に学ぶ賢者なのだが.

例えば,古典的洪水対策:築堤技術や防風林などだ.前者では土地利用が代表的だ.現代のようなダムが技術的に不可能だったので,田園地帯を緊急時の放流先として設計されていた.これを現代によみがえらせるとすると,権利関係の交渉は難航を極めるだろう.ただこれは災害対策のみならず,氾濫により淘汰を勝ち残る生態系へも好影響を与えたり,近頃注目されるESG,SDGs的視点から見ても注目される.また後者は,東日本大震災の後に絶対的対策として,10m超の堤防の案が出された.ただ景観への批判も多かった.そこで森林地帯を緩衝材とする方法もある.これであれば,景観への悪影響を避けられ,コストも抑えられ,環境に優しい.さらにコンクリートが建設時に地域の経済を一次的に活性化するのに対し,森林を用いる場合はこれが少ない代わりに森の手入れとして地元に一定の雇用が確保され安定的だ.

付記するなら,今後は都心部ゲリラ豪雨による内水氾濫に注意が必要だ.

書評

本書はこのようなグリーンインフラの特徴や必要とされる社会課題を前半に記し(ここで要旨を書いてしまったが),後半ではケーススタディとして詳細に記述している.それに際しMRIの協力の賜物か,見やすい図表でまとめられている.カラーの写真も豊富だ.各章を各人が記しているため,若干の内容の重複にくどさを感じる部分が若干あるが,内容は非常に面白い.インフラ屋として土木家はもちろんのこと,前述のように複合的評価が必要になることから環境に興味ある人をはじめ万人に勧められる.身近な話題に合わせ治水関連を強めに書いたが,都市計画:公園の立地計画などの広い側面で書かれている.

コンクリートから人への新しい時代の到来を感じさせる.グリーンインフラ的に言うなら,コンクリートから緑へといったところだろうか.

中央新幹線問題

また水害では氾濫が注目されやすいように感じるが,確率的には干ばつも同様だ.気候変動は雨が降りすぎているというより,極端になっている,バラツキが大きくなっていると捉えた方が正しい.(温暖化で熱帯に気候が近づいているという解釈も可能ではあるが.)

そこで別個の水問題としては,中央新幹線の静岡問題がある.これはのぞみの停車駅がないことや経済的メリットがないといった批判も散見される.ただそれらは本質的とは言えないだろう.一般的に水問題はもっと深刻に扱われるべきである.

そんなに干ばつ,水不足が怖くないのなら,梅雨を前にダムはほぼ空にすべきである.しかし実際はそうではない.豪雨の可能性と同等に干ばつの可能性もあるため,最低限の水を確保できるように,ある程度ダムに貯留されている.2016年の首都圏での渇水は比較的記憶に新しいだろう.そして市民レベルに認知されるということは,深刻な事態を意味する.家庭用水よりも先んじて,農業用・工業用水が影響を受けるためだ.

そのため仮に大井川水系の流量が減ることで,静岡のお茶や工業へ影響が出る懸念がある.名産へ影響が出てはひとたまりもない.

これらを踏まえた上で経済的な影響について考慮する段階へ踏み出せる.同様の問題として歴史は非常に参考になる.飯山線だ.興味がある人は調べてもらいたい.

リニア問題に関しては,静岡県側がごねているという見方が大勢だ.ただJR側の姿勢も真摯とはいえなそうなところがうかがえる.

確かに社運を賭けた国家的プロジェクトで国の予算も入っていて,1つの県が邪魔もので建設推進派からは邪魔でしかないだろう.しかし環境の視点に欠けるのは,非常に前時代的で残念と言わざるを得ない.