AOKI's copy&paste archive

高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

ゼミ1:コンパクトシティの論文レビュー

はじめに

ゼミでたくさん論文を読み発表し研究室で共有するのだが,それではもったいないと思いここに記してより共有できればと思いコピペ(一部削っている)した次第だ.ただ論文レビューは研究室によりかなり違うのかなと思う.研究室の都合,内容と数行の感想をそれぞれA4に1枚ほどでまとめる文量である.

学校や研究室は気が向いたらここにも載せたいと思う.というか近いうち受験関連の記事を書きたいとは思っている.ただ非常に忙しくなかなか難しい.この点も書きたいのだが..

ちなみに筆者の専攻は都市計画である.その分野の人はもちろん,他分野でも興味ある人は一読してもらえれるとうれしく思う.URLは載せていないが,原則オープンアクセスのもので著者なども載せているので,面白そうと思うものがあれば,ぜひ原本を読んでもらいたい.抜けてる図表とかも.

前置きが長くなったが,今回はその中でもコンパクトシティを中心として読んでいる.ちなみに次回は鉄道の予定.

 

レビュー

住民と観光客の意識からみる住民参加による観光まちづくりの利点と課題―ドンピラン地域を事例として―

白りな,十代田朗,津々見崇

都市計画論文集Vol.51 No.1 2016.4

内容

インバウンドが増加する日本にあったテーマと思ったので選択した.観光まちづくりの展開と住民・観光客の意識などを明らかにすることを目的としている.既往の研究で,岸田は地域のおもてなしが重要と説いているようである.

まちの発展の経緯として,ドンピランでは,壁画公募展など行政やP21主導で観光客受け入れ態勢が進み,整備した空間を飲食店やロケ地に活用し観光公害が台頭し,住民参加が進み観光公害の軽減が進んだ.しかし住民参加は観光事業者に集中し,経済的利潤が追求され,生活空間や新たな観光業の視点に欠けていることが指摘された.

ステークホルダーの意識としては数十人にアンケートや面接を行いまとめている.住民は活気があるなどとして,観光地化に概ね満足しているものの,多くが観光業などに不参加・,無関心である.これは先述の点と重なる.また観光業はこうした態度を発展の阻害として見ており対立している.ただし住民の消極性には高齢化なども関係している.しかしいずれも魅力ある観光地にしたいという未来像を掲げる人が多かった.また社会的にはまちに改善があったものの,インフラなど物理的には改善が見られない.

観光客は100人余りにアンケートを行っている.初期は近くの若者が多かったが,知名度が増すとともに幅広い人が訪れている.同様に滞在時間や支出も増加している.しかし支出は飲食に集中していて多様化が必要としている.また満足度を点数化した分析ではよい評価が得られているものの再訪の可能性は低いとしている.

感想△

内容としては自明に感じる部分が多かった.ステークホルダーの意見がまとめられているのはよかった.

 

コンパクトシティ政策に対する記述と評価の乖離実態
―都市計画マスタープランに着目して―

越川知紘,森本瑛士,谷口守

都市計画論文集Vol.52 No.3 2017.10

内容

都市マスの記述の有無と各統計値などを比較して乖離について分析することを目的としている.対象都市として,東京と非線引き都市を除いた36都市を選んだ.筆者がコンパクトシティの評価指標に関する論文と都市マス延べ72冊を読むことで経時的にも分析をした.

コンパクトシティの記述の変遷については,右図のとおりで,その目的に流行,トレンドのようなものがあり,多様化が進んでいると言える.

ベン図による分析によれば,2016年は30都市が利便性,経済,省エネの分野に該当し,利便性と組み合わせるものが多いことが分かった.また経時的には,これまでの取り組みをやめた都市も存在することが分かった.

地価は金融政策の影響を受け,歩行量は高齢化により低下し,都市ごとの違いがあまり見られなかった.よってこれまでの研究で示された評価指標が都市マスから影響されないことが俯瞰的に示された.種々の要因やメカニズムが都市マスからコントロールできる範囲を超えて,タイトル通り目標と評価指標値に乖離があることが示された.また都市構造のコンパクト性に大きな変化は見られなかった.

感想〇

これまで示された指標があまり活用できないことが示されたのは残念だが有意だと思った.全体として難しい内容だったが乖離があることが示されたのは有意義であり,これからの施策に課題があると感じた.

 

コンパクトシティ形成効果の費用便益評価システムに関する研究

高橋美保子,出口敦

都市計画論文集No.42-3 2007.10

内容

環境会計よりコンパクトシティの効果の定量化を目的としている.

定量化には主に各種原単位と統計データを用いている.一方でアクセス性向上やエネルギー効率化など定量化が難しく,検討に入れていない項目もある.シミュレーションは人口の増減と都市の拡縮を組み合わせて,4つのシナリオに沿って分析を行っている.

結果として,人口減少期ではなく,人口増加期にコンパクトシティ政策を行うべきで,またコンパクトシティの効果として,移動エネルギーの削減は都市形成費用に比べ小さいことが分かった.

ここまでは仮想都市モデルでシステムの検証を行っていたが,実在する福岡市でケーススタディを行った.結果は費用が便益を上回るが,検討できていない防災性や地域活性化などの便益が含まれていないため,一概に悪いとは言えず今後の課題である.

まとめとして,コンパクトシティの利点として,都市のインフラコストを抑えられることを挙げている.また評価年数により費用便益分析が逆転することも考えられるとしている.

感想〇

福岡のような都市でもコンパクトシティの導入が難しい現実と,便益の換算の難しさを突き付けられた.

 

財政状況からみた持続可能な都市特性の評価に関する研究

大山雅人,森本章倫

都市計画論文集Vol.52 No.3 2017.3

内容

財政に影響を与える都市特性を定量的に把握し,効率的な都市経営に資することを目的としている.今井により示された右図のような税制状況早見表を用いた.縦軸は将来負担比率で,横軸は基金額比率でそれぞれ財政の指標から求められる.また右上に分布するほど財政的に厳しいことを示す.

基金額比率と将来負担比率に分け,歳入と歳出の要因を重回帰分析した.

さらにそれぞれを重回帰分析した.住民税については,法人分は昼夜率と企業数,個人分は生産年齢人口,一次就業者割合,DID面積/総面積が有意だった.民生費については,高齢者の人口と一人当たりの道路延長,土木費についてはDID人口密度,一人当たりの道路延長,DID面積が有意だった.

立地適正化は,右上図よりやはり財政の厳しいほど進んでいた.また右図のように取組ありは低密な都市で進んでいることが示された.これまでの分析結果から道路を10%削減したところ,土木費が約3.1%,将来負担比率が1.1%減少することが示された.

財政は全体として好転傾向だが,地方格差が広がっていることも確認された.

感想△

定量化されたのは有意だろうが,説明変数などが自明だろうと思い目新しさを感じなかった.

 

鉄道路線網における適切なパルステーブルの探索

大庭哲治,中川大,松中亮治,原田容輔,松原光也

都市計画論文集Vol.49 No.3 2014.10

内容

パルスタイムテーブルとは,それぞれの乗り継ぎの時間短縮を考慮した施策である.期待所要時間とは,待ち時間を含めた所要時間で,それを各旅客数で足した値,総期待所要時間の最小値を求め,パルスタイムテーブルの有効性の確認を目的とする.対象地域は関西北部で単線と複線,また特急(優等列車)が含まれる.既往の研究として,赤松はコストから似たアプローチを行い,非混雑時は待ち時間などの影響が乗換などより影響しているとしている.

遺伝的アルゴリズムを用い,総期待所要時間の探索を自動化するシステムを構築した.計算にあたってはPT調査の結果を活用して利用客数に重みづけした.現行ダイヤに比べ,13.3%の時間短縮が見られた.重みづけを含まない期待所要時間でも10.2%の改善があった.しかしPT調査の都合,旅客数が0の区間なども見られた.そこで,各駅間で期待所要時間が現行より大きくならないように再度分析をした.その場合でも,総期待所要時間は9.3%改善し,前の分析と比べ,期待所要時間が大きくなる駅は17%減少した.これによりネットワーク全体の利便性が向上したと言える.

このような施策はコストが度外視されることも多いが,現行と類似した1時間か2時間でのパターンダイヤに基づく分析を行っている.ただし,出発分布に偏りがある場合など完全に適切なわけではない.

感想◎

自分がやってみたいと思っていたものに近かった.かなり有効な結果が得られている印象だった.ただ遺伝的アルゴリズムをよく知らず具体的なやり方があまりわからなかったので,機会をみて勉強しようと思った.

 

Redesign of the supply of mobile mechanics based on a novel genetic optimization algorithm using Google Maps API

András Király, János Abonyi

Engineering Applications of Artificial Intelligence 38 (2015) 122–130

内容

右図のように物流(モビリティ) 最小の経路コストの路線計画を立てられるようにすることを目的とし,multiple Traveling Salesman Problem (mTSP)を用いた. 運転手の人件費,燃料費.高速の通行料などのコストを最小にするよう分析した.

既往の研究ではTSPを変換していたが,追加の制約を考慮したmTSPを作成するとしている.そのために遺伝的アルゴリズムを用いた.そこで複雑なものを作成するため,単純な変異を用い,階層構造を作って解析したようである.これらを右図のような作業とともに繰り返したようである.結果,右表のようにmTSPによってコストが低減することが示された.

さらに 実際の物流問題の解決のため,これを活用したアプリケーションを制限付きで公開し適用した.ここで距離の計算にGoogleMapを用い,インプットとアウトプットに活用した.さらにこのシステムはGoogleに提供され,改善に役立てられている.

まとめとして,mTSPを用いたことで動機問題の複雑さ,制約の取り扱いで個人の再現ができ革新的としている.

感想◎

英語や遺伝的アルゴリズムをかみ砕ききれなかったところがあるが,モビリティの改善として面白かった.また普段用いている利便性の裏側,具体的な社会貢献を垣間見れたのがよかった.