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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

ゼミ6:地方鉄道の上下分離の役割や効果

地方鉄道への財政的支援問題に対する沿線住民の賛否態度の要因分析
岐阜県樽見鉄道を事例として

坂本 淳, 山岡 俊一, 藤田 素弘

都市計画論文集2012 年 47 巻 3 号 p. 325-330

内容

樽見線はかつて貨物を中心に栄え第三セクターの優等生とも評されたが,最近は赤字続きで執筆当時今後の補助も見通せない状況であり,地方鉄道の典型の漏れない路線だった.そこでこれらの維持のため,合意形成にむけた知見を得ることを目的としている.沿線地域へのポスティング・郵便のアンケートの形式で回答率は44.9%だった.なお質問項目に税の支払いについても含まれていたためか,地域の年齢割合に比べ高齢者の回答が多かった.
まず賛否と個人属性について簡単に分析している.5つの選択肢を設け,自治体が財政が厳しくても支援すべきを賛成とし,他を(程度や手法,実現性に差異あり)反対として,半々の回答を得た.そして移動手段,まちづくり,環境,財政などの項目10について5件法を行い,それを賛否と関連させクラスカル・ワーリス検定を行った.移動手段の項目については賛否両者とも肯定的だが,環境や渋滞に関しては,支援反対派は否定的だった.また経費削減の努力について賛成派は肯定的だった.
仮想評価法CVMにより支払い意志額の推定を行った.なお支払いとしては追加税で,回答は二項とした.提示金額と賛同率の推定をダブルバウンド・ロジットモデルで行ったところ,反対派は金額によらず支払いを拒否する傾向に見られた.さらに共分散構造分析により上図のような意識構造モデルが示された.
最後に自由欄の記述について分析した.Text analytics for surveysを用いキーワード抽出を行った.例えば,“こども”というキーワードに関しては,通学で必要と示された一方,こどものころに使ったが今はいらないという2者の意見があった.そのため先述の5件法では適切に評価できない意見もあることが示された.また財政などのカテゴリから負担を不満とする声が明らかになった.また回答自体にも家族や地域に必要か,個人として必要かという立場の違いが明らかになり,それにより賛否に影響を与えただろうと推測している.

感想〇

意識構造モデルは見やすく,有意性に基づいていて面白い分析だと思った.簡単なアンケートから複雑な分析を行っていてすごいと思った.意見が多様で難しそうだと思った. 

 

鉄道の廃止が並行道路の混雑およびCO2排出量に与える影響評価

吉村 彰大, 松野 泰也
Journal of Life Cycle Assessment, Japan2019 年 15 巻 1 号 p. 54-69

内容

鉄道の採算性は費用便益分析が一般的だが,これには渋滞やCO2の増減の比較ができない.その点を補えるような新たな手法を考案することを目的としている.具体的には赤字路線の維持と,廃止した時の沿線道路整備を比較している.転換率は混乱があったため適切とは言い切れないが,京福電鉄の42%をベースに20,60,80%で感度分析もした.なお廃線撤去費用は考慮していない.
まずこれまでに廃線になった2線(日立電鉄三木鉄道)について分析を行い,交通状況の変化の測定値と本モデルの推定値を比較した.これによれば概ね精度はいい.しかしセンサスの値がたまたま違い,誤差がやや出たと述べている.なおこれらの地域では廃線による自動車転換による混雑悪化は特に見られなかった.
現存鉄道は廃止が検討されているa,利用者増のb,運営主体が変わったcなどにカテゴライズした.a,bでは経済合理性としては,事業継続の社会的意義がないことが示された.しかし路線によっては沿線道路の混雑悪化が確認され,その点では維持すべきだろう.一方,cなどは経済合理性が確認された.ゆえに継続すべきと述べている.これらの取り組みより,維持するためには利用者増加やコスト圧縮などの積極的な施策が必要だと指摘している.ここでも混雑悪化が見られ,特に混雑率が1.25を超えるものもしばしばみられ,廃止した場合は慢性的に渋滞するだろうと推計された.
またCO2の面からも分析している.ここでもa,bは悪い結果が出た.輸送密度が著しく小さく鉄道を走らせた方が環境に悪いことが示された.cなどは良好だった.よって電化路線の輸送密度がある程度担保されていれば,維持すべきだろうと述べている.
ただし本分析では,地方で重視される鉄道の利便性や走行速度低下のCO2増,将来の人口変化,維持費の増加は考慮できておらず課題であり,鉄道の価値の過大推計の懸念もある.また地方自治体の負担は,道路・鉄道いずれの場合も変わりない.

感想◎

手法が細かく記述されておりよかった.実務的な比較で現実的で面白かった.鉄道も場合によっては環境に悪いのは意外だった. 

 

Using walkability measures to identify train stations with the potential to become transit oriented developments located in walkable neighbourhoods

Dana Jeffrey, Claire Boulangé, Billie Giles-Corti, Simon Washington, Lucy Gunn
Journal of Transport Geography 76 (2019) 221–231

内容

メルボルン首都圏の230の駅の周辺のTransit Oriented Developments (TODs)について,歩きやすさを中心としてクラスタ分析し,TODの発展のための指標を求めている.背景として,これまではスプロール化を支持する形だったが,最近は公共交通の施策へシフトが見られ,それに資することを目的としている.
データはGIS交通系の統計的データを利用している.商店や交差点,バス停などの交通施設の数や駐車場の面積を説明変数としている.
結果としてクラスタは3つに分類され,高密な1(図中緑),中間の2(紺),やや低密な3(水)となった.GISからの土地利用について,順に商店などの密度が異なったほか,3では駐車場など自動車への親和性が高い傾向があった.駅に流入する交通モードとしては,1が特に歩行・鉄道・トラムが多く,自家用車・バスは少なかった.歩行とクラスタについて分布を示したのが上図である.筆者は市街地のコンパクト性が歩行流入などに寄与していると考察している.また2で自家用車が非常に多かった.
TODの導入としては,ポテンシャルがある3が適切だろうと述べていた.しかし2の開発とは異なるアプローチが必要だと指摘している.最後に分析において生活圏の指標として適切な800m街路ネットワークバッファを用いたのが強みだと述べている.

感想〇

多極型のコンパクトシティの違ったアプローチとして見られて面白かった.メルボルンは湾があって放射状に鉄道があって三大都市圏に似ているように感じた.日本ほど鉄道は発展していないが,その点は地方都市に似ているように感じた.それぞれの側面で日本も同様に考えられる部分があるように思う.クラスタの2と3のあり方が面白かった.単に中間,地方という感じでもなさそうだった.2ではパークアンドライドが促され,3では自動車利用者は駅に向かわず,自家用車で直接OD移動しているとも考えられる.  

欧州の鉄道上下分離における線路使用料の役割

小澤 茂樹, 根本 敏則
交通学研究2013 年 56 巻 p. 59-66

内容

欧州の鉄道は,上下分離が行われおり使用料が課されている.これは効率性の観点などから重要視されている.使用料の原則と実態の乖離を示し,要員を体系的に整理することと,各国の鉄道政策の整合性を検証することを目的としている.このEUの原則とは使用料は社会的限界費用に設定することが一貫して明示されている.なお赤字の補填などは例外も認められている.政策担当者は効率性と収支均衡に苦悩している.
独仏英瑞(スウェーデン)のプライシング政策をまとめている.独は一部料金でその分の基本料金が従量料金に加味されている.反対に仏は二部料金で,英は中間的な柔軟な策をとっている.また費用に対する使用料の割合は独60%,仏65%,瑞5%,英50%である.独は民営化も視野にいれ100%にすることを目指している.英は同様の方針の失敗経験があり消極的になっている.瑞は赤字を政府が補填することとし,限界費用に設定されEU原則を順守する姿勢が見られる.実際に輸送密度はそれぞれ27,16,4,31(1000列車キロ/ネットワーク距離)で維持が難しいことがうかがえる.また反対にバルト三国など東欧は財政状況が悪いため,使用料で100%まかなわれている.仏は高速鉄道をはじめ使用料が高く,新規参入が阻害されていることが示された.具体的には東海道新幹線以上の高密度運転(110往復/日)が求められることが示された.なおTGVは現在20~30往復/日である.
また資源配分について分析している.これは都市と地方のバランスのとり方の問題である.いずれも赤字路線は補助が入り維持が図られ,混雑区間は反対に高い使用料が課されている.これは鉄道の自由化が行われる中で,利潤追求と公共交通の側面を維持することの2つをとるためやむを得ない部分はあると思う.しかしEUの原則を逸脱し,また財政的に余裕があるから行えており,国・地域間の歪みが広がることを懸念している.
最後にここまでの使用量は鉄道内の勘定で行われており,環境などの外部利益を評価できておらず,平均費用価格形成の問題を指摘し,マルチモーダルを考慮することを今後の課題に挙げている.

感想◎

ヨーロッパの鉄道の経営状態はあまり知らなかったので参考になり面白かった.上下分離は地方で広く用いられているので,各地域に似た各国の施策が参考になるだろうと思った.利潤追求と公共性のジレンマは世界共通の課題と感じた.日本の運賃は都市部は競争により安く地方は赤字で高く,JRでつり合いをとっているが,逆なようにも思った.

 

要は安定の都市部は運賃高め,厳しい地方は運賃安め

競争原理で現状は無理なんだが

言ってるそばからJR北が,,,

新しい運賃・料⾦について|お知らせ|JR北海道- Hokkaido Railway Company

*7/2追記 

あるいはこんな記事も

headlines.yahoo.co.jp

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車両走行時間を考慮した全国の地域鉄道の運行費用に関する研究

大庭 哲治, 松中 亮治, 中川 大, 工藤 文也
土木計画学研究・論文集 第33巻2016 年 72 巻 5 号 p. I_1047-I_1056

内容

鉄道事業の分析には一般に走行距離が用いられるが,時間に依存する運転士人件費など過大推計の課題が懸念される.そこで距離と時間の運航費用と路線特性を表す指標の関連性を明らかにすることを目的としている.
方法としては統計とダイヤを基に,一両あたり1kmあたりの距離単価,時間単価を各事業者で算出している.散布図よりいずれの指標でも総運行費用と修繕費に正の相関が見られた.また構成比について分析を行い,運転費や運輸費など旅客サービスの費用の割合が大きく,維持補修に関する費用は比較的小さかった.
重回帰分析を変数増減法で全説明変数が5%有意になるまで行った.目的変数は線路保存費,電路保存費,車両保存費,運転費,運輸費とした.まず線路保存費は貨物列車の本数と上下分離D(ダミー),複線率が正符号で1%有意だった.並行在来線が地方鉄道の中でも高水準なためと考えられる.そこで上下分離と貨物が通る事業者を除き再び分析したところ,距離と時間でそれぞれ表定速度(-)と非電化D(+)が有意になった.路線環境が影響し係数としては相殺されたと分析している.電路でも同様に分析し,貨物・上下分離が有意で,ほかに自動閉塞Dがあった.設備の整備度合いが寄与したものとしている.さらにこれらを除いたものでは非電化D(-)が有意で符号が逆になった.電路ではこれらの整備があまりネックになっておらず,また他の係数が棄却された影響もあるだろうとしている.
次に車両保存費は特筆するものとして直通特急D(+)が有意だった.これらの機器の諸経費が負担になっていることが示された.次に運転費である.ここでは非電化D(+)と表定速度(-/+)が有意だった.非電化についてはその裏に本数の少なさがあり,乗務員の拘束時間が無駄に長くなり増大したのが原因だろうと考察している.表定速度は距離単価-と時間単価+で符号が入れ替わった.前者は人件費,後者は燃料費などが主な要因として考えられるとしている.これよりこれまでの距離の分析では,特に運転費について正確な分析が行えないだろうと指摘している.最後に運輸費では特筆するものとして第二種Dが有意だった.これは線路使用料を払う必要があるため,経済的に負担になっているためだ.距離単価では営業キロ当たりの有人駅(+)が1%有意だった.これは駅員の人件費のためだ.
細かくは記述できなかったが係数にも距離・時間単価で違いが見られ,下線部からもこの指標の有効性が示された.

感想〇

相関係数は0.4を下回り低かった.回帰式の推定ではないが,回帰係数としては微妙化という感じ.そもそも地方鉄道の全数調査になっているので,係数の有意性より要因分析が主眼だろうかというところだが,他の分析方法のが適切ではないだろうか.わかりやすいが.

 

二酸化炭素排出量削減のためのモーダルシフト実証実験とその評価に関する研究

高橋 洋二
2004 年 39.3 巻 p. 529-534

内容

実証実験の対象にモーダルシフトの特徴などをまとめ分析・評価することを目的としている.というのも環境対策のためTDMの一環として,モーダルシフトに対し国交省補助金を出す施策が行われている.
簡略化した原単位を用いてマクロ的に計算した.関東-九州間のトラック輸送の大部分を開運・鉄道へモーダルシフトした例では,それぞれ60,70%ほどのCO2削減が果たされたことが示された.
この実験に参加した事業者に対し,アンケート調査を行っている.郵送する方式で回答率は79%だった.輸送手段は7割が鉄道へ,2割が海運へ,残りがその他へシフトしていた.またこれらの事業者は8割以上がこの実験以外にも環境への取り組みを行っていた.逆に行わない理由として,コストと時間が主な要因として挙げられていた.一方,環境へ関心の高い事業者のが,これらの施策により物流コスト削減が達成された.これは実験に際し,効率化や見直しが行われたためだと考察している.またこの取り組みの結果,企業イメージの向上を挙げる事業者も多くいた.温暖化対策税についても質問しており,4割ほどが具体的に行動していると回答しており,検討中も含めると半数を超え,関心が高いことがうかがえる.
またCO2の削減について,目標との達成率を分析している.これは年毎に88,75%で,ステークホルダーとの調整やピーク期でなかったなどの課題をまとめており,難しいだろうとまとめ課題としている.しかしコスト的にはポジティブな傾向が見られた.
最後に実験全体の課題をまとめている.まずオークション方式のため小規模プロジェクトが多くなること,CO2の原単位より海運より鉄道が多くなること,同様に海運から鉄道へシフトが見られ不適切なこと,新規や都市内を対象にできないことを挙げている.

感想△

CO2の削減率が2例しか示されておらず,全体として示された情報が少なめだったのが残念だった.全体として比較的簡単な分析にように感じた.最近はトラック運転手の人件費も高騰していると思うので,よりモーダルシフトの機運が高まると思う.一方,将来は無人運転の普及で,運送のトラックの分担率が増えてしまう懸念もありそうだと思った.またコストについては,補助金ありきで考えているのかいないのかが非常に気になった.補助金は千万・百万単位で与えられていたので驚きだった.補助金なしでコスト改善があるなら,市場原理に期待したい.

 

最後にちょっと関係ないけど過去の面白かったの

https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/mag/ncr/18/00042/012300005/