この流れで
要旨の要旨としてはこんな感じかな.
映画21世紀の資本の試写会的イベント参加した
— AOKI Takashige (@aochan_0119) 2020年3月5日
イデオロギーの色が強めなのでそこで好み分かれるかもだが近代経済のバイブル名著がもとなだけあって学術的価値の高い仕上がり
映像化されているのでマクロ経済の入門にもおすすめ
社会に経済のあり方を問う一石となることに期待
3/20から新宿にて公開
ネタバレを多聞に含む.というか感想というより要旨??
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映画は原作者や知人の学者の解説を挟みながら歴史を追って展開されていく.まずは社会主義の崩壊からの資本主義の流れが再確認されつつ,これにより資本主義に寄りすぎてしまったと批判する.
そして貴族社会から話は始まる.かつて資本というのは土地で1%の貴族の特権を守る制度の下に社会が構成されていた.そこでmoney morried moneyというセリフがあり,これは非常にシンプルで象徴的で面白い.思想の支配という言い回しも同様だ.
その後レミゼの民衆の歌のシーンを参考に産業革命を含む社会の革命で大きな変化を迎える.そして土地からモノの経済へと移ろう.そしてファッションなどがこれを煽った.Xmasも文化が変化し消費するイベントへ変貌した.個人的に現代日本におけるハロウィン・バレンタインデーも同様の手法を源泉とした古典的資本主義戦略で面白い.
そして軍拡の時代だ.WW1.植民地支配により投資のサイクルが回るようになり加速した.労働者の扱いも洗練(人権侵害)された.ここで人材に関する逸話は面白い.最近では企業も人財と言ったりするが同じようなことだ.奴隷をストックしておくことで,いざとなればこれを商品とすることができるという考え方だ.非常に合理的だ.
そして戦争の原因には経済格差の拡大があったわけだが,これが愛国心にすり替えられた.プロパガンダの奏功だろうか.
その後バブルが多幸症を煽り(卵と鶏のようだが)世界恐慌を引き起こす.これにより銀行員が投獄され担保として法整備が進んだのは非常に評価できる.これが現代でできるだろうか.
しかし歴史は繰り返す.ドイツはWW1の賠償金などもあり景気が悪くヒトラーの煽りもあってファシズムが進行した.このファシズムが極貧と関連すると映画は説く.またニューディール政策においても格差拡大を受けて共産主義的政策が盛り込まれた.そしてWW2はテクノロジーの戦争だった.これにより工業化が進んだ.この組み合わせにより福利厚生や国有化,上位への課税が進んだ.勉強でのし上がったサッチャーが象徴的とも述べる.
その後戦争への回避は社会的合意がなされたが,中東のリスクにより再び不安定な社会を迎える.オイルショック,スタグフレーションだ.
これにより企業は財務主義に走る.これまで繰り返してきた資本への偏心だ.一方,日独は労使の参加が進んだ.結果としてこれにより景気は逆転する.これは同盟国側には皮肉だ.その後も福祉を否定し人間の心理的弱みに付け込んだ物語の選挙戦略が功を奏しレーガンが台頭する.トランプのGreat America Againはここに通じる.そして貪欲になることも正当化され,これを免罪符に逆行した社会へ.
そしてローンバブルいわゆるサブプライムローンのリーマンショックで信用が崩壊する.多くの人が損失を被ったが金持ちの被害は少なかったらしい.というのも株価の回復は早かったためだとしている.そこでGDPの伸びとともに経済は成長してきたが,賃金の上昇率とは乖離が見られ,これが金持ちが成長を横取りしているものだと批判する.
さらに民主的な支配からエリートによる支配へのイデオロギーの変化も言及された.またたまたま金持ちになった人がこれを自身の能力だと勘違いするという研究結果が実験とともに示された.これにより同情できなくなるらしく,そのこと自体,人間の性に同情せざるを得ない.アカデミックとしてここは非常に面白い.
そしていよいよ最近の話題に突入する.租税回避TAX HEAVENだ.また神の見えざる手で有名なアダムスミスについても言及した.彼は社会で金を循環させるために銀行の重要性を説いた.しかし現在の大きすぎてつぶせないような大銀行は想像・理解できなかっただろうと考察した.さらに金融商品の8割がマネーゲームで資本家の成長への還元の少なさを批判した.不動産は世代間格差が生まれ,若者はババを引かされたと分析する.これは非常に問題だ.日本においては殊更年金問題もある.人口減少も迎える中,やっていけるのだろうか.これもあり,2/3の若者が親よりも少ない賃金になると推測されている.経済成長は確かにしているのにだ.矛盾でしかない.資本利益率が経済成長よりも大きいことにも言及した.さらに最近ではUber Eatsの映像を示しながら自営業扱いの雇用が増え,福利厚生の崩壊,極貧の再来の懸念を述べた.総括すると資本と権利の集中が悪とした.
そこで民族対立などの楽な施策を考えずバランスを真摯に見つめなおすことを提案した.累進課税を高め本当の実業家以外が失脚するような自然淘汰の摂理を定義し,相続による富裕層の固定化対策も説いた.しかし一方で機械化・AI社会により人が馬になるかもしれないと述べた.これは比喩で馬が自動車といった機械に置換されていった歴史を示す.そのため資本の再検討が必要だとまとめた.
感想としては経済的失敗の歴史に焦点を当てている点で面白く非常に勉強になる.不景気は起こるべくして起こるとも考えられそうだ.今後はVUCAともいわれるのでこれまた分からないところもあるが.
ただこうした構造的問題が明らかになったにも関わらず失敗が繰り返される点は不思議だ.まさしくトランプやBREXITはナショナリズムの再興と言える.しかし裏を返せばそれだけ資本家への締め付けが難しいことがうかがえる.TAX HEAVENのパートでも述べられていた.必要なのはそうした地域への制裁だと.
だが政治家の身になればこうした本質的解決の施策を説いて納得してもらうよりかは,他民族のせいだと転嫁して煽りさながらアジテーションした方が楽に決まっている.そしてこれは有権者の投票行動にも言える.であるならば自己責任の端が0とも言い切れない.当然資本家の保身という姿勢に対し私も批判的だが.
そして試写会では質疑応答が設けられた.まず1人目は質問が長くてよく覚えていないが,答えとしては原作者ピケティが続きとなる「資本とイデオロギー」を出版するとのことでそれを読んでくれとのこと.これは来春発売とのことだ.ここでは70%の高税でベーシックインカムが実現可能だとか説いているらしい.
次の2名は高齢者で特有のイデオロギーを含んだものだった.まずピケティが社会変革にあたり戦争が必要悪だと考えているか,次にこの映画の内容自体そのものが特定の思想観念に寄っていてプロパガンダ的だというさながら批判だ.前者はある意味でそうかもしれない.回答者は暴力と不平等の人類史を読むことを勧めた.ちなみに会場文喫ではこのイベントに合わせ,関連する本のおすすめコーナが設けられている.映画に興味を持ったならこれもお勧めだ.後者は新作への繋がりを意識したものではないかと答えた.というのも原作の本との記述の差異が見られるようだ.
最後にこれまでの話が欧米を中心に展開され,日本での適応の是非を問いた.これは概ね適応できそうだ.この観点で行くと今後は経済圏が中国を中心としたアジアに移るのは確定的で,これによりどのような化学反応が起こるかということこそ興味深いのではないだろうか.