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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

新書感想文

こちらでも言及しましたが、最近経済政策的な本をいくつか読んだ。
pytho.hatenablog.com

吉川先生と竹中先生が激論をし、その時に経済学のマンキュー先生(グレゴリー・マンキュー)の「デフィシット・ギャンブル」(成長率と金利のどちらが大きいことの方が多いのかを研究した論文の名前)というものを引いて延々と議論した。その時、小泉総理が怒って「マンキューかサンキューか知らないが、専門的な議論を俺の前で二度とするな」とおっしゃった」(第四回会合小泉を真似ての熱演に爆笑が起こった。しかし、参加者の多くは、同時に、冷静だった。受けだけを狙っているわけではない。自分は小泉さんとは違う。専門的な議論でも構わないと言いたいのだろう――と。確かに安倍は専門的な議論でも避けなかった。参考人として呼ばれたエコノミストに小難しい用語を交えながら質問することもよくあった。

歴代首相の性格と能力が如実に比較表現されていて面白い。
本書は全般的に中立的ながら、批判すべきところは批判している良識に富んだものと感じた。

アベノミクスの評価は難しいところだが、安倍本人の感想の記載も含め、財政を重視するベターな方向性があったことは確かだ。ここは氏の回顧録積読になっているので、そことも見比べたい。
反して金融は黒田バズーカもろとも超積極的だったわけだが、歪みを生んだであろうことが分かりやすく記載されていた。

分かりやすさとしては時系列に従っていたのも一因か。
第二次安倍内閣発足時はそれまでの流れから財務省が強く見えたが、長期政権や安倍・菅らへの権力集中に伴って、具体的には日銀人事などを通じて、官邸に比べ財務省が相対的に弱体化した。
それでありながら岸田内閣はアベノミクスに迎合せず、また財務省が強まっているように見える。新しい資本主義は結局よくわからないが。

そもそも官邸と財務省の力関係といっても、それぞれのイデオローグがよく分からなかった。
ただ本書を通じて得た個人的な簡潔な理解としては、財務省プライマリーバランス重視の緊縮側、官邸はインフレ目指す赤字国債発行の緩和側とまとめられる。

こちらは自公政権についてで金融とはまた少し違う。
強いてそれについて言及すれば、自民党は保守・地方重視、公明党は革新・都心重視の傾向にあるため、自民の強行めな保守的政策へのバーターとして革新的政策への調整がされていた点が挙げられる。

目下、野党は対案の力不足が指摘される印象だが、公明党イデオロギーは対立しつつも与党として非常に効果的な立ち回りができていると言える。
革新寄りの意見も持つものとしては、創価学会に敬遠感もありながら、革新的政策の実現という目的においては公明党への投票というのも意外と捨てたものでもないとも思えたりする。

そこで自公政権の安定感へ納得感があったものの、ここのところ連立に暗雲も立ち込めている。

公明党の山口代表、衆院選「決断すれば受けて立つ備え」 - 日本経済新聞

しかしながら自民党が強すぎるあまり、創価学会も弱体化しているから:鶏と卵の感もあるが、公明党は連立解消後に議席を保てるか怪しくも思える。
自民党の弱小議員も気がかりだが、その分野党にも分配され多様性が広がればいいのかもしれない。それよりは大阪系の躍進が気になるか。

あと政策も大事だがやはり選挙制度が重要だ。
自民一強は圧倒的に小選挙区が強い。死票も多いわけで比例を増やすとか、N増N減を繰り返して増えた都市部で中選挙区にするとかしてほしい。

あと本書ではあまり言及なかったと思うが、公明党は特にバラマキ重視な気がする。
アベノミクスの金融緩和路線とは好相性の政策だったかもだが、昨今の岸田の緊縮寄せとは相性が悪くて連立暗雲への一因になっているのかも。

話は逸れるがバラマキという餌で選挙に臨むのもいかがなものか。


それを踏まえ、以前の意見がまたアップデートされた。
今まではUBIやMMTのバラマキに肯定的だったが、ちょっと批判的な方へ旗振りが変わってきた。
有り体に言えばアベノミクス批判的な。

pytho.hatenablog.com

分配するお金はもともと民間企業のお金であり、個人のお金ですよ。それらを担保に国債を発行してお金を調達しているだけなのに、偉そうに「分配だ」なんて腹が立つよね。それに、お金を借りても金利がかからないし、もうすべてが資本主義に反しています。

資本主義に反することをしていながら「新しい資本主義」だと言ってどうするの。このまま分配ばかりしていたら国は滅びますよ。

business.nikkei.com

>そうですね。
大手民間企業の社長は普通の国民の1000倍くらい税金を払ったり、雇用創出をしたりしているはずなので説得力がある。
ただ民間企業には様々な立ち位置があるとはいえ、法人税減税されてきた中では少し筋が悪いように思える。
その分の財政規律を主に消費税で賄ってきたわけだが、これは格差助長なので軌道修正した方がいいと思うね。

それでありながら分配するのは意味不明というか。
減税すれば至極シンプルなのに。
反対に民間企業の施策においては、共通ポイントなどで消費喚起しているのがもはやあべこべだ。


またUBIの持続性も疑問だ。生保的な死なない程度ならまだしも、まったく働かずに暮らせるようにして、金融的に担保ができるのか。
フリーライダーって何かと問題になるが、そこの解決策がいまいちやっぱり見えない。
これまではMMT的な通貨発行やらでどうにかなると思っていたが、通貨の本質が信用であることを原理的に考えると、そうして大量発行して原資を確保したとしても、通貨の価値が低下してインフレしていく気がする。

gigazine.net

普通に考えてそんな都合のいい話があるかと。
これが冒頭の書籍からの知見に基づく話だ。

財務省イデオロギーに毒されてしまったようにも思えなくもないが。
しかしながらAIの台頭で労働が著しく減ったりしたならば、また分からない。

ただAIについて言及すると、基本的には使いこなせる人へのブースターとして機能して、能力を持つ個人や企業の収益性が激増し格差助長になりそうな気はする。
反対にAIや機械化のコスパの悪い微妙に面倒な単純労働は人間が安いという産業革命黎明期を繰り返しそう。
情報化において第三次産業革命とか言われているわけで。

都合のいい話云々では日銀の緩和継続も。
日本株にほぼオール・インで投資している者としては、緩和はありがたい限りだし、これは世の特に微妙な業績の会社の経営者にはありがたいことだろう。
しかし本質的なリバタリアニズムで考えても、こうした言わば船団護衛方式は結局競争力が高まらず死んでいく気がする。

痛みを伴うのは確かで、誰もその責任を取りたがらないだろうが、バブルと同じで早めにやっておいた方がいいと思う。
なので日本株も逆に銀行株に移したり、そろぼち米国の比率を高めて、リスクヘッジのフェーズに移っていくべきかなと。
本当は総裁交代時にそうなりそうだからそうしたかったものの、行動心理的に悪いところが出て先延ばしにしていた。
ただ植田総裁も時期を見ながら是正はしていくことだろう。岸田のイデオロギー的にも。

全然知らなかったけど国債だけでなく日銀が企業の株を買い支えているのも不健全に見える。このあたり、というか全般的に所詮素人ではあるが。

さらにさらに脱線かつ繰り返しだが、日銀の独立性への侵害のコンテクストにおけるアベノミクス批判も興味深かった。

[社説]財政の規律と効果を高める道筋を示せ - 日本経済新聞

何も説教じみた辛気くさい話をしなくても、深刻化する人手不足と、それに伴う賃金水準の上昇によって、企業はDXに真剣に取り組まざるを得なくなっていくわけだ。それができないのなら、転職が当たり前になっているから人は去るし、人は来ない。そうなると企業は、人手不足で倒産し、消え去るしかない。

日本の「失われた30年」がついに終了か、次に来るのはAIによるディストピアの悪夢 (3ページ目):日経ビジネス電子版