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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

米国大統領戦とリベラル

先日,読んだ本が図らずとも大統領選に近そうなテーマだったので,便乗して記しておこう.

実際のところは,私自身の政治への興味というかイデオロギーが理由だ.

 

 

本書は成長と定常を歴史的観点を踏まえ考察している.ポスト資本主義とあるように,資本主義を一歩引いて見つめ,現在が定常化へ向かう過渡期とした.このリンクを作るに際し知ったが,かのドラッカーも同様の主張をしているらしい.要チェックか.

科学技術と資本主義も同質・表裏一体で,技術の進展とイデオロギーの変化は深く関連すると仮定し議論している.古代文明の停滞期に宗教も同時多発的に生まれ,拡大から定常への社会変革にイデオロギーが関連するとした.

 

そして学術的な資本主義や哲学の歴史を振り返る.そもそもの資本主義は社会主義へのカウンタがあった.そこで当初は市場原理主義に近かった.

これに基づき社会が形成されていったが貧富の格差も生まれ,資本主義にも問題点があることから,随時修正資本主義として変化してきた.ただ各国の違いがあり,欧州が福祉的方向なのに対し,アメリカは原理的で公共財が是正される程度に留まった.

これらの背景には,マルクスはもちろんのこと,ベーコンやミルといった哲学の影響も大きいとした.また近代の大局的変化として,物質,エネルギー,情報,生命の順の技術があると筆者は述べている.プローデルらの対比も示された.

 

そして資本主義社会において,GDPという豊かさの指標という後ろ盾を得て,より強固となった.ブータンには新たな豊かさ指標もあるが,今日の社会はGDPに支配されているといって過言ではないだろう.しかし大きくて潰せない大企業といった資本主義の矛盾も明らかになった.こうして序章の提起をリアル化させていく.

 

そして科学と社会の関連を考察する.

アメリカは医療研究は積極的だが,そのサービスは自助で悪く,投資の割に市民に還元されていないことも例示した.科学研究に投資しているのに,市民社会は豊かとは言い難い.

一方,今日の科学では社会的な観点が百花繚乱,花開く.行動経済学ソーシャル・キャピタルなど個人から共同体に着目するようになっている.

 

pytho.hatenablog.com

 

行動原理が生存を保障すると仮定し,ややスピリチュアルな印象になるがアニミズムや哲学的考察も加えている.万有引力エントロピーなどを.

そして自然の法則は,自然法に類似し根本的に宗教観に影響するとしている.

 

正規雇用などは生産過剰が原因とし,欠乏による貧困から過剰による貧困へ移っていると現代社会を批判した.確かにバブル期までは,先進国では資本が全体として不足していただろう.現在ではインフラも整備されているし,業務なども効率化が進んでいると感じる.そのために抑制と再分配が必要だと筆者は提案する.

ただ楽園にはパラドクスがあり,そこでは見方を変えれば失業率100%となる.これを直視できるようにならなければならないだろう.言い方を変えれば働かなくて良い社会で非常にポジティブだと思うが.

 

そこで労働時間政策はヨーロッパで先行すると例示している.また筆者は祝日倍増政策を提案している.有給などの利用も進まないから,国家の制度的介入の方向として.確かに日本人の平均労働時間や一人あたりのGDPを見れば自明だろう.

 

さらに前述の資本の詳細を述べる.具体的には現在は人手と自然資源が逆転した.

ゆえにこそ環境へのシフトが必要となる.環境対策の仕事はいずれも救う手になる.

これまでは人間が自然を支配し,その恩恵を享受することで経済拡大につなげていったが,この源泉たる自然が限界を迎えている.そのため経済のパイの限界も今日では限界に規定されてしまい拡大は望めない.

 

歴史上の社会保障にも言及している.救貧法社会保険,雇用の順に整備され,セーフティネットから高次化してきた歴史がある.上記の雇用問題よりも社会のセーフティネットの方がプライオリティが高い.また自由の保障は社会的に恣意的につくられるべきとした.

 

加えて日本の年金問題にも切り込んだ.逆進的だと批判する.社会保険料を払えたものが豊かで,あまり払えなかった層が老後生活に困窮することを挙げた.資本主義的には当然の帰結とも言えるが,今日の低所得高齢者の問題を批判する.

この高齢者のあり方は福祉化の進む北欧と真逆で,南欧に類似し,構図としてはギリシャ危機と同様だと述べる.

 

また資本にはフローとストックがあるわけだが,ストックの格差のほうが問題だとも述べる.遺産や経済格差と教育格差の関連の問題だ.ピケティの主張した土地金利不労所得の増加が経済停滞に対応することも示した.

 

そこで筆者はドイツの都市の例も挙げて,コミュニティ経済を提案した.適切な経済圏で地方創生を行える.ドイツでは自然エネルギー100%を目指す小地域もあると例示した.

 

これまでの原理的資本主義と社会主義の中道としての福祉国家を,「緑の福祉国家」に昇華して運営していくべきと述べる.個人的には語感が残念だと思ったが.

これまでの人間社会の弱者に寄り添ったような福祉国家に,名の通り緑:自然環境を加え入れた形だ.

多様性の理解としてのグローバル化において,宗教対立も冒頭にまとめたとおり根本的に同質的倫理観に由来しているから相互理解できるだろう.

 

 

さらにこれらの新たな方針に対し,以下の関係性も深いだろう.あまりこれはイデオロギーと絡めるべきでもないように感じるが.

 

 

 これとかが関連していた.結局放置されているが.

pytho.hatenablog.com

 

ぶっちゃけSDGsについては知っているし改めて読むまでもないとも思っていたが,深く理解しているかと言えばそうでもないので読んでみた.

 

本書は二部構成で,後半は業種ごとにSDGsに向けた課題や取り組みが例示されているので,現役のビジネスパーソンも自分の関わる業種はチェックしておくといいだろう.

一部は説明が行われるが,政府と金融関連の話が多い.

目標とする持続可能な社会において,前者の政策や具体的な目標の設定と,後者の融資の影響が大きいからだろう.

 

冒頭は制定過程から始まる.前身としてはMillenium Development Goalsというものがあった.SDGsはこれを現代にアレンジ・改善した形だ.新興国を加えたりバックキャスト的アプローチが取られている点が挙げられている.またこれらの実現に必要なコストは100倍にもなった.それだけ理想的な社会が遠いと示唆されるが,見方を変えればそれだけビジネス機会もあるということだ.

 

Facebookが早くに参加したことも紹介された.上記のビジネス機会という投機的見方もできるが,対応しないリスクが現代社会では高まっていると筆者は考察する.今日の経済リスクは金融的なものもあるだろうし,コロナ禍もあるが,大局的に気候変動などの環境の悪化もあり,これへの態度が影響するという理論だ.

 

今日の日本の課題も示されている.本書では2017までの各国の達成状況が示された.

日本においてはジャンダー,環境,パートナーシップのスコアが悪い.逆に教育は高い水準を示している.結果として11/157という順位だ.

ジェンダーは女性の社会進出の遅れが最たるものだろう.

環境は化石燃料依存の高さからだ.菅総理が目標を示したが,急がなければならないだろう.

パートナーシップとは企業秘密の多さとのことだ.確かにデータ社会を迎えた今日,もっと開示されれば社会全体として改善に向かうだろう.例えば交通機関なら移動データを.あるいはブロックチェーンとして分散化することも関連させられるかもしれない.

教育については個人的に疑問だが,国際的評価は高いようだ.義務教育の就学率に加え,大学進学率の数値は高いのが要因か.ただ新卒のためだし本質的ではないし,奨学金破産の闇もある.義務教育の内容,質もイマイチだ.予断は許さないと思うので油断大敵だ.

 

そして話は金融的方面へ移る.

2005年からESG投資への見方が好転し,SDGsはそこへ効果抜群だった.

2016年にはスターバックスサステナビリティポンドを発行した.

さらに最近は石炭への風当たりが強く,逆投資としてのダイベストメントも進む.

石炭ビジネスを許さない圧力が金融からかかっている.

現代経済学の観点では,この融資も元金は市民預金なので私達も他人事ではないだろう.

 

そうしてグリーンポンドなどで金に色がつくようになっている.

そこでESGはプロセス,SDGsが名の通りゴールと見れる.

SDGsに合わせてSGGIというグループも作られ,インパクト指標が定量化された、再エネ発電量やt-CO2,雇用創出数などだ.後述もされていたが,KPI化されているようで扱いやすい.

SDGI-NL

理由として時間軸の悲劇:安物買いの銭失いがある.目先の利益を追って社会的な損失が増大しているため,長期的な視野が必要という背景だ.

 

また15年前に流行ったCSRを今日に蘇らせるのにも役立つ.こんなのも.

 

www.youtube.com

 

また既存のビジネスでは限界があるとして,イノベーション日系企業に求められると筆者は述べる.

類例としてパナソニックは廃棄物のうちの有価物を売却することで,全体の5%をも占める売上を創出した.ビジネスとして成功するとともに,リサイクルを促す理想例だ.

 

こうした枠組みを考えるにあたり,SDGsとビジネスをどちらを従属的に考えるかも問題になる.答えとしてはどちらでも考えられる.

一般的には既存のビジネスにどのSDGsが当てはまるかを考えがちだが,SDGsから女性登用を増やすとか福祉的ビジネスに領域を広げるとかいったこともできる.

スタディサプリは月千円で義務教育から大学受験までの教育サービスを受けられる.これは教育の目標に対応したビジネスだ.

 

日本におけるビジネス・イノベーションの課題として,慣性(惰性),属人性,自前主義を筆者は指摘している.これまでの慣例に囚われがちで新しいものが生まれにくい上,それを個人が担当し異動によってプロジェクトの維持が難しく,一社で行おうとするため実現できないという具合だ.

 

冒頭にも紹介した第2部については各具体例なので詳細は省く.

SDGsには17の目標があるが,それ自体は割と概念的で実現するにも難しいところがある.そこで細分化もされている.こうして噛み砕くことでとっかかりやすくなることが例示されている.

 

 

このSDGs自体はタイトルの大統領選との関連は低いだろうが,リベラルとの親和性が高い.すなわちバイデンに近く,トランプは正反対だ.

前者は環境意識も比較的高くいわゆるリベラル的だ.後者は良くも悪くも古典的だ.流行り病の対応にも明確に差が出た.

 

そうしてバイデンは都心部リテラシーの高い層,トランプは郊外のリテラシーの低い層からの支持が集まった.リテラシーの高低はあくまで推測だが.あるいは3次産業vs.1次産業とか高齢者vs.若者の対立とも見れるかもしれない.

ただ結果として選挙も拮抗し,米国内は分断することとなった.裁判でこれから1ヶ月は揉めそうだ.少し話は逸れるが,郵便投票の是非やメディアのあり方も揉める大きな争点になりそうだ.ぶっちゃけ序盤の流れからの変わりようは驚きだった.

当確となったバイデンは団結を訴えるが,その実現は険しいだろう.

 

このままバイデンが大統領となれば,米国もリベラルへの回帰に向いそうだ.中国も2060年までにカーボンニュートラルを目指し,EVの売上世界一を誇るなど環境へシフトしている.世界的に環境対策へは足並みが揃いつつある.

となると,日本の火力発電依存は国際的に非常に脆い.電力と言わずとも環境への風向きは強まることがほぼ間違いない.企業活動においても,それを強力に推し進めていかなければならなくなるだろう.そこでSDGs対岸の火事ではない.

 

また前半のポスト資本主義にもあったように,雇用や社会制度の課題も山積だ.

 

バイデンも医療制度を充実化させる政策を挙げるなど,あのアメリカが福祉国家に向かっていく公算が高い.欧州の福祉国家戦略は言うまでもないことで,中国は共産主義体制なので比較はできない.

となると夜警国家のような古典的資本主義国家は日韓くらいしか残らないだろう.あるいはここに新興国が追いついてくるかもしれないが,どちらかと言えば我々の陥落と言ったほうが正しいだろう.

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ポスト資本主義より

 

どちらもただの社会体制なので誤りではないが,国民の豊かさの最大化は国家のテーマだろう.言い回しがミルの最大幸福みたいだが.

そしてGDPによる金銭だけの評価も揺らぎつつある.

 

コロナ対策では健闘する東アジアだが,経済格差や勤労環境,自然環境は欧州に劣る.今後はこうした評価が高まるだろう.特に海外をまたぐ資本家は厳しいだろう.

 

また国民も少しずつ変化していくだろう.そういう意味で今回のアメリカ大統領戦は歴史的と言えるかもしれない.転換点かもしれないからだ.その結果は今後の政治に期待だ.

翻って日本では難しいだろう.リベラルが忌避される上,政治参加が弱いからだ.今こうして書いていてもリベラルの意味が難しいから,正直使うことを躊躇う.念の為書いておくと,ここで言うリベラルは海外で用いられるような本来的意味だ.

まさしく米民主党の方向性に近い.日本の野党の多くが国内ではリベラルと一般に言われるが違和感がある.菅総理は改革を進める印象もあってリベラルだと感じる.

 

ゆえに今後の菅内閣に期待したい.このままバイデンが新大統領となった暁には早期に首脳会談も設けられるだろう.そこで安倍前総理同様,国際的にもいい立ち位置を期待したい.

書いていて混乱したから思ったが,リベラルという言葉のちぐはぐさ,国内での矛盾が,政治への関心の低下を招いているように感じる.分かりにくくて関わりたくなくなるからだ.

 

11/13追記

バイデン政権誕生は米シェール革命の終わりか :日本経済新聞

 

11/17追記

世銀が見やすいグラフで脱帽.

datatopics.worldbank.org

 

2020年 SDGs企業番付表 総合力上位に入ったのは :日本経済新聞

記事では上場企業の上位が入っているらしい.イオンは大店法の負のレガシーが大きいと思うが,それ以上の価値を提供できているのだろうか.

あるいは大成建設も上位に食い込んでいたようだが,事業そのものがしかたなさはあるものの環境負荷が高いことをしていて課題が大きい上,技能実習生の労働力をn次受けで搾取しているのではないかという疑念もある.ただこれは古い見方だとも思うので,私が思うよりも業界の健全化は進んでいるのかもしれない.

また航空や鉄道など交通事業者は入っていなかったり評価が低かった.個人的には上記の企業よりかは良好だと思うのだが.例えばJR東は山手線にSDGsラッピングの車両を走らせ周知を図ったわけだし.本質的な事業ではないにしろ,態度としてはそんな印象だ.