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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

【書評】行動経済学のすゝめ


これまでの伝統的経済学へのいわばアンチテーゼである本分野の簡単な紹介を行っている.上述のようにこのブログで度々挙げているように学問分野を知ったきっかけは千莉さん.

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序盤では細分化されたメカニズムの紹介を例を交えながら行っている.有名な話も多いが,例えば叱ると伸びるという因果関係を誤認しがちなものなどを紹介している.これは平均への回帰というものだ.気になった人は読むなり調べるなりしてもらいたい.他にもダイエットをすぐに始められない理論的根拠を述べている.心当たりがある人には下手なダイエット教本よりもこれを読むのがベターだろう.
そして後半ではこれらの話を踏まえ具体的な税制などへ展開する.Twitterでも述べた軽減税率とコロナの補助金について詳細に述べたいと思う.ここで後者は私が本書を読んだ上で考察したもので本書の見解とは異なる点に注意だ.前者については簡単に述べると制度自体が低所得者の救済という目的を果たしていないことに集約される.単純な税金の支払い額としては”割合”であり累進性がないため高所得者の方が単純な金額として得をし(エンゲル係数が違おうが絶対的な金額では高所得者が有利),また生産者に有利となる.新聞についての議論が一時深まったが,この理論を知っておけば不合理性の説得力を高められる.本書はこれらについて,伝統的経済学と行動経済学の両者から考察している.ゆえに読者は中立的視点から考えることができる点も利点だ.ただ課題としてこの章は他に比べ文章やその内容が難解になっている印象を受けた.改訂があるのなら適宜図表でより平易にしてもらいたい.
そして後者は私独自の見解だ.申告制というのは利用者にとって明らかに負担だ.行動経済学においてはデフォルトの優位性が示されている.全員に配られることがデフォルト・標準であるならば誰もがその恩恵を受けられる.
ここで高所得者にも還元されるという批判があるだろう.事実,安倍総理ですらそのようなことを述べていた.しかしこれは合理的視点からは批判に当たらない.というのも第一に高所得者の絶対数が少ない.日本の収入において平均値と中央値の乖離が大きく,富が上位の数%に集中しているという話は有名だ.彼らに特別な配慮を行う必要性は薄い.であるならば多くの貧困者を漏れなく迅速に救う方が優先されるというのは至極自然で合理的だ.
加えて手続きの面倒さが挙げられる.貧困者はストレスにさらされがちという見方が本書でも紹介されている.このようなストレス下においては合理的な判断ができなくなる.あるいはその傾向が表れる.したがって貧困者は経済的にひっ迫しているのにも関わらず,申告の面倒さを嫌って申告を行わない可能性がある.あるいは面倒ごとを先送りにする現状バイアスが働く懸念もある.この対策として一律的な給付はやはり合理的だ.
第三に高所得者への配分にも意味があると推測できる.高所得者は余裕があるため貰った分を消費に回すことが予想される.この行動についても行動経済学から心理的に導ける.メンタルアカウンティングに当てはまる.給付金はボーナスと受け止められ貯蓄されにくい性質がある.したがって給付そのものが経済対策的性質を帯びることができる.
主に以上の3点から申告制ではなく,一律の給付が望ましいと考える.
また給付でなく消費税を抑えるべきではという考えもある.ただこれは具体的な数字が重要になるので議論は難しい.個人的な考察としては,消費税の減税よりも給付金の方が心理的に利得局面であり上述のとおり消費促進・景気回復につながるのではないかと考察する.あるいはいっそのこと消費税さえも”マイナス金利”にしてしまうというのもジョーカーとして在り得る.そうした研究結果も眉唾ながらあるようだ.確かに逆進性なので妥当感はある.
今回はここで切って,次回はここからベーシックインカムについて検討してみる.
なお本書はモラルハザードや防災対策の在り方の議論も紹介している.前者は今回のコロナでも他山の石となる含蓄に富んだものだと感じる.後者は私の専門性とも関連するところだ.経済学は交通経済学で履修していたが,そこに行動経済学的新たな視点はなかった.あくまで説明変数や有意性について考察する時にそうした視点の余地がある程度に留まる.より積極的に取り入れて学問をさらに高次元にできればいいだろう.特に災害対策は多くの人命,対策予算がかかり,VUCAで気候変動で激甚化する中で,日を追うごとに重要性は高まる.

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