MaaS
最近バズワードになったMaaSについてまとめた本.発行は2018年の末.そのため現在は観光や航空をはじめ変わったものの,最近まとまったものなので大筋では傾向などは変わらないだろう.
作中で国内外の様々な事例を取り上げている.ただ日本国内は連携が進んでいないため,後進的な印象が強い.海外は公共交通がほぼ完全に行政に管理されているのに対し,日本ではJRやJALなど民間企業へ分権化されてしまったことは遠因だろう.この点は新内閣で新ポストについた河野氏の活躍などに期待したい.また法制度も挙げられる.具体的なところは本書を読むとともに,調査すべきだし,研究テーマになるうるほどの価値を感じる.
例えば,スイス国鉄ではサブスクの形式で,鉄道利用とEVのレンタルを10万/月ほどで実際に行っている.自動車のSharingなど所有が薄まる流れにうまく乗った施策だ.さらにパークアンドライドを推奨できるため,鉄道の価値も下がらず,環境へ訴えることもできる.日本でも自動車が中心の地方では,実現の検討の余地があるだろう.またコロナ禍で定期券の価値が問われる中でも答えになるうる.
そもそもMaaSという言葉はフィンランドの大学の修士論文に載ったことが始まりらしい.現役修士学生の私には刺さるところだ.とはいえ,実際のところ流行らせたのは別人らしい.そもそもの意味は,フィンランドの都市部の自動車利用の多さを公共交通に移すため,APIによる情報開示によって利便性を高める意図があったようだ.
その後,公共交通を利用させるにあたり,whimとしてマルチモーダルの定期券といえるようなサブスクモデルが挙がった.当時はNetflixも普及していなかったが,インターネットプロバイダの成功体験から,こうした先見性の土壌があったと述べられている.こうして公共交通利用率はWhimユーザにおいて,半数から3/4まで上昇した.
MaaSがテーマの書籍ではあるが,代表的な交通手段の自動車のゲームチェンジ:CASEを無視することはできない.例えば台湾ではUberを一度禁止したものの,免許の制度を変えることで再開を認めた.こうした取り組みは日本も真似できそうだ.自動車の利用率は5%を下回るので,自動車メーカを国内に有すとは言え,高度利用は検討しなければならないだろう.フィンランドはこうした背景も後押ししたと述べられている.またメーカのスマイルカーブによる展望の厳しさも指摘している.
またグローバルスタンダードである鉄道の上下分離についても述べている.こうすることで健全に競争が働くとしている.そこで独自のKPIによる評価システムも発展しているようだ.日本における路線の評価は,営業係数が挙げられるが,単純な費用便益分析なことが課題だ.事故や渋滞,環境の損失を換算する手法も検討されてはいるが,こうした海外のノウハウは輸入にあたうのではないだろうか.ケオリスというのは初耳だったが,海外の鉄道の上モノ管理の世界的権威らしい.日本のガラパゴス的側面なのかもしれない.海外へ攻勢を強めるJR3社から見ればライバルかもしれないが,特に地方の赤字路線の維持については協力できるパートナーたりうるのではないだろうか.
テクノロジーの進化によってタクシーの在り方も様々なものが生まれている.モイアでは6人のプロが運転する相乗りタクシーが提供されている.タクシーが個人利用で私人的だったものを,ITで公共的に進化させたと言える.制度的には日本でも可能だろう.タクシーは下記で精力的な取り組みを行っていたりもする.
建設テック
ITやAIの台頭でフィンテックをはじめとした**テックが急速に普及している.その中で建設分野に絞って事例を紹介している.日経BPから出版されており,日経コンストラクションの記事の流用的な部分も多そうだが,こうした新分野を特集している点に大きな価値がある.
章ごとに
- ドローン
- 3D: BIM/CIM
- 自動運転・ロボット
- AI・画像解析
- ベンチャー・VC
がテーマになっている.冒頭の1章では話の伺ったテラドローンも登場しており,読んでいて優越感があった.
70ページ1行目には打音検査をするドローンが紹介されていた.現在はこの音を検査官が聞いて判断を行っているらしいが,将来的には音の分析自体もAIにより分析され,人手はさらに大きく省かれるだろう.
94ページにはシンガポールでの都市のバーチャル化が紹介されている.BIMなどのデータを義務付けることで実現できるようになったとのことだ.これにより都市の管理が楽になることが期待されている.私の趣味でもあるVtuberとの相性もよさそうだ.仮想空間でありながら,現実空間での配信や動画制作が行える.遠くて次元が違うけど身近という新たな価値を創出できそうだ.Google mapやStreet viewの進化形として,都市を適宜アーカイブ化したり,様々な活用も期待できる.都市の座標を細かく電子化できれば,現在は都度計測している自動運転についても,アーカイブされたデータを参照することでその必要がなくなり効率化が期待できるかもしれない.
162ページでは不整地の自動運転の走行軌跡が図化されている.IP化による集中管理室の構想も述べられているが,近い将来にSFのようにロボットに指示を下し作業を行うのも目前だろう.ただそれが土木の現場監督というのは面白い.とはいえ細かい作業は機械が苦手だろうし,うまく分業するのだろう.このあたりは193ページに,本社と現場の権限の在り方でも少し考察されている.また機械化にあたり,分野を牽引してきた機械系の工場の在り方は参考になりそうだと書かれている.建設作業は単一生産という特徴から汎用化できなかったが,技術の台頭でようやく実現が現実的になってきたためだ.
203ページは分野ごとの見方がマッピングされている.分野により進展度も違うし,異業種の参入度合いも異なり,そうした特徴がまた面白く,また期待できるところだ.
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関連したりしなかったり面白そうなリンクとか
「土木インフラ維持管理計画の作成支援技術」を開発 道路・鉄道管理者の意図に沿った維持管理計画を容易に作成 | 東工大ニュース | 東京工業大学
1990年代の論文読んでるけど、今の施工管理アプリとかBIM・CIMとかロボットみたいなのは大体研究されてることに驚く。
— 中島貴春@建設×ITで起業 (@1988_nakajima) 2020年9月19日
特にBIMに関しては本質ついてるものが多く、むしろBIMという言葉がない方がもっと普及も研究も進むんじゃないかと思った。
Microsoftが世界トップクラスの言語モデル「GPT-3」の独占的ライセンスを取得 - GIGAZINE
YouTubeで「programming」で検索すると大体コード書いてる動画が出てくるのに「プログラミング」で検索すると大体情報商材屋が出てくるあたり、日本の闇を感じる。 pic.twitter.com/Bm10W2GE52
— わい (@atamayabami) 2020年9月28日
大学
弊学の学長が書かれた本.私の所感とも合うところだが,学術研究へのコストカットによる大学運営の厳しさを語っている.選択と集中による弊害の批判とも言えるかもしれない.
基礎研究の重要性も語られていたように感じた.以下は父と話したものでもある.例えば今回のコロナCOVID-19によって,ジョンホブキンス大学の数値がしばしば挙げられたり,北大8割おじさんが唐突に表れた.偉大な研究を行っている東大やハーバード大学ではなかった.これは感染症に関する基礎研究を行っていたことが,今回の騒動でたまたま合致したに過ぎない.このように大学の研究結果がいつどこで生かせるかは予測できない.そのため選択と集中というのは誤りだ.研究はファンダメンタルに行われるべきだ.もし目先のビジネスに生きそうな技術開発に傾倒すれば,コロナ騒動はもっと酷くなっていたかもしれない.しかもそうした取り組みは民間企業の本分だ.公共的側面の強い大学が法人化によってそうした動きへシフトすることは不健全だ.ただ世の中お金だし背に腹は代えられないので,本書では産官学連携などで暗中模索することが書かれている.状況は劣悪だが,そうした中でベストを尽くすこともまた重要だろう.
本書では結果的にヒットした研究を主として研究内容の紹介も行われている.ただ電気分野が多めで,土木専攻としてはそのあたりは難しかった.ただ弊学を目指す高校生らも大学の方針を知る一助として,一読の価値があると思う.東工大としての方針,現在の大学の在り方を知ることができる.
国家的危機
日本の研究力低下、つまずきは若手軽視 (写真=共同) :日本経済新聞
大学の研究力低迷、「選択と集中」奏功せず 広がる格差 :日本経済新聞
科学技術立国支える 大学院の博士課程学生数 ピーク時の半分に | 教育 | NHKニュース
イノベーションのジレンマ
経営の名著であるイノベーションのジレンマについて,その問題点を指摘するようなコンセプトで書かれる.ただ単純な否定・批判ではない.経済学的アプローチを行っている.両者は似ているようで異なる.建築と土木の関係に似ているかもしれない.
本書はイノベーションのジレンマ未読でも理解できるよう解説され,また経済学専攻でなくても読めるよう平易に書かれているので心配はいらない.
- 置換効果
- 抜け駆け
- 研究開発力
上記を主なテーマに,それぞれのうまみや状態を仮説して考察している.例えば置換効果により大企業は動きにくいし動機づけが弱いが,独占・寡占による経済学的メリットは大きいだとか.例えば継続的に収益を上げている大企業が,ぽっと出で信用力・与信もない新興企業に研究開発力で負けるわけがないといった文とか.そういった感じで上述の批判をしている.
名著に噛み付いている点で既に面白いし,他分野からの論理的な批判という点も面白い.複数の視点によって客観的に創造的破壊を捉え直し,視座を高められると感じた.
グリーンインフラ
大まかには以前書いた下記の記事の通り.
付け加えるなら,環境経済学について347ページで触れられていたり,384ページに貨幣経済は終わっているのではという見方が面白かった点を付記する.
参考文献リスト:リンク先参照
次はこのあたりを読みたいかな..
生物多様性・生態系と経済の基礎知識 : わかりやすい生物多様性に関わる経済・ビジネスの新しい動き | 東京工業大学附属図書館 蔵書検索
デザイン思考のつくりかた : 実践企業とトップクリエイターに学ぶ成功のポイントと落とし穴 | 東京工業大学附属図書館 蔵書検索
学びを結果に変えるアウトプット大全 | 東京工業大学附属図書館 蔵書検索
ディープ・エコロジーの原郷 : ノルウェーの環境思想 | 東京工業大学附属図書館 蔵書検索
量子の海、ディラックの深淵 : 天才物理学者の華々しき業績と寡黙なる生涯 | 東京工業大学附属図書館 蔵書検索
リーン・スタートアップ : ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす | 東京工業大学附属図書館 蔵書検索
蛇足
蔵書150万冊を誇る古書の聖地「たもかく」で、本の森の賢者はかく語りき – Michino
出版社によって「文化を後世に残す」「誰でも自由に本が読める」という図書館の偉大さが失われようとしている - GIGAZINE