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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

効果的な利他主義宣言!慈善活動への科学的アプローチを考える

昨年末に読んでいた本の内容に、昨今の情勢がぴたりと当てはまったので、自己消化のためにまとめつつ紹介。
紹介する内容は上記の効果的利他主義についての書籍。

要旨をまとめると、寄付にあたってはそのコストパフォーマンスをよくよく吟味すべきという啓蒙。


また直近で近接性のある内容として、災害時の寄付のあり方にも言及があり、政府予算や各組織からの応援があるので、コスパの観点で見ればそれほど効率的な投資とは言えないという点だ。
当然、これは被災地への寄付・義援金を直接的に否定するものでもないが、一旦立ち止まって考えてみることも重要だろう。
特にツイート:ポストにもあるように、その効果にそもそも疑問がある場合はなおのことだ。

やや過去を遡れば24時間テレビの寄付金の扱いにも疑問があった。
特定の政治団体などを疑問視する声もある。
企業なら当然のこと、政治でもある程度、その予算の配分は注目される。
しかし寄付になると、俄然これらが闇に陥りがちなことを、本書は特に指摘している。
また入金の総額と送金の総額、中間費を開示しようとも、その費目、使い方にも注意があることを促している。
寄付金の権利は寄附者本人の我々に帰属しているので、その利用先はある程度コントロールされるべきだが、なぜか善意にごまかされているような側面もある。


本書は類似するイデオロギーとして、自ら功利主義も挙げているが、功利主義の守備範囲や目的が狭い点に対し、効果的な利他主義は包括的で柔軟性を持つ思想として差別化している。

本書では具体的な寄付先も提案しており、上位は途上国の健康支援、ついで経済や教育支援が挙げられている。先進国に対する支援は、アメリカの書籍ということもあってか、刑罰のあり方に関するものくらいだ。しかし世界中の人間の命や時間の価値を平等に置けば、先進国の改善はいわばコスパが悪く、理論的な効率主義で、功利主義的思想を延長すれば、自ずと支援先はアフリカ支援に向いていく。
そこで具体的な理論式として、QALYという健康指数の計算や比較を紹介している。これは公共政策分野の費用便益分析に類似しており、個人的な納得感は高いものだった。
考え方自体はそれほど新規性の高いものでもなく、要はトリアージと同様だ。これを世界規模で見ればというだけの話に過ぎず、この前提のもと地球規模で課題を検討すれば、理論的な計算を伴わずとも、同様の結果に行き着くのは半ば自明なことだろう。

そしてついで冒頭にも示した災害支援の非効率性が言及される。
関連して次に述べられるユニセフへのやや消極的な本書の姿勢も同様の理屈で語れるだろう。
要はこれらは感情想起性が高いという共通点があると、個人的には考えられる。
実際にユニセフのCMやポスターには、心理学を応用してアフリカの子供の可哀想な画像とメッセージを訴求している。資本収集には効率的で、腐っても資本主義の中で見出された最適解なのだろうが、本書の文脈とは対立するものだ。
大災害時にも扇状的な見出しでニュースのトップラインを飾り、結果的に世界中から支援金が集まる。

しかし良くも悪くもそうした支援がなくとも、災害支援に関しては、自衛隊の支援体制や関連法、民間企業の救済策などが整備、準備されており、上記のようないわばつまらない世界課題に比べれば、遥かに支援の資本を集められると主張されている。
これは個人的にもなるほどの理論で、確かにこれだけの支援がありながら、さらなる支援をするのは、支援者側自身のエゴも部分的には否定できないだろう。
特に昨今はSNSでそうした姿勢も主張できるが、偽善とは言いたくないが、そういう心持ちを示すことへの疲れもなくはない。
さらに言えば、ユニセフの心理学の応用といい、システム1の感情的思考に支配される人間の心の弱さを示す好例とも言えよう。
最後にこうした大規模な寄付先は、経済学的には限界効用逓減の法則がはたらくのもポイントだ。
二重過程理論 - Wikipedia

本書は多角的に考察、指摘が入っていて素晴らしい。
欠点をあげるとするならば、著者自身も自覚しているが、こうした寄付そのものを即座に送るのか、自身で投資で増やしてからがいいのか、インフレ率を考慮するとどうかといった記載は弱くもある。


ここまでが直近に関連する普遍的な寄付の内容で、追って同様の考え方を用いて、キャリア選択にも言及している。
寄付自体は財産に余裕のある社会人向けの内容だが、こちらは高校生、大学生向けの内容で、本書は全年齢対象的だ。

寄付はそもそも献身性の高い人がしばしば行う人の行動なので、そうした人のキャリアの最適解を検討している。
当然、1つの答えが出るわけではなく価値観次第で、その判断の手助けをするような内容だ。 
主に以下のようなものを挙げている。

  • NPO職員
  • 医者
  • 起業
  • 金融マンになり稼ぎを寄付
  • 政治家

NPO職員は直接関われるが、代替性も高く、キャリアを縛るのであまりオススメされていない。
医者も同様だが、途上国支援の意義は高いことを認めている。

読んでいた印象としては、金融マン系が無難なオススメといった印象だった。
金は天下の回りものということだろう。
またキャリアが柔軟なことも、特に若い人に勧める上では勧めやすいのだろう。
そう本書の面白いところは、いわば功利主義的に考えると、一見正義感に欠けるような内容が選ばれることだ。ウォールストリートなんて様々な文脈で、資本主義の悪者のように書かれるけれども、どうやらリバタリアン的思想と相性がいいのか。

政治家もわりかし評価は高い。
同様に投票の意義も解かれており、これは今の日本社会、とりわけ若者には刺さるだろう。
政治は勝てば官軍の世界で、リターンは莫大だ。
それでもこれだけ無関心なのは、システム的に本人が及ぼす影響力が小さいと見積もられているからだ。
今の日本の若者も行ったほうがいいと理屈では考えながら、どうせ変わらないという判断をしていることが多い空気を感じる。

ここでも理数的な考えが外挿され、それが期待値だ。
支持候補者の当選確率は、どうせ低いかもしれないが、仮にうまくいった場合のリターンは上述の通り莫大だ。
しかも投票は1時間外出するくらいで、それほどコスティーでもない。
小さなコストと確率、そして莫大なリターンを勘案すれば、ダメ元でも投票しておくのがいいということになるという勧めだ。
同様に政治家のキャリアもあるということだ。しかし能力的なポテンシャルがないと、難しいとも申し添えられており、本書は出身大学なども言及されている。


上記でキャリアの選択肢に金融マンを挙げたが、他にもコンサル、マーケの潰しの広さを評価されており、現在の業務内容がマーケ的だったのは個人的に福音だ。
別に特段やりたい仕事や社会課題というのもあまりなく、なあなあにやるにもちょうどいい。
態度が冷めていると、昭和的な人にはご批判を頂戴してしまうだろうが。

詳しくは本文に譲るが主要な判断基準は以下だ。心理学の職務特性理論の引用らしい。

  • 自律性
  • 完結性
  • 多様性
  • フィードバック
  • 貢献度

文脈が脱線して現在の仕事の評価になってしまうが、自分自身の改善点でもある、これで言うと

  • 自律性

高いが翻って自己責任的でもある、そろそろ自分自身でケツモチしながらやらないとマズイ

  • 完結性

普段の業務は当然1サラリーマンなので小さいが、特定のPJTやキャンペーンで見れば結構高い
ただしこの観点だけで言えば、やはりゼネコンなんかは叶わないなと

  • 多様性

仕事内容はやや単調で改善の余地あり

  • フィードバック

1on1などはマメで多様な人と設定できており良い

  • 貢献度

ここは明確に弱い、自部署の社会課題解決は正直やや疑問、隣の部署は幾分マシそうで、手伝う機会がありそうなのは不幸中の幸い

そんなわけで私は今回の被災支援を敬遠している。
ただしこれは書いた通り価値観の問題でもある。
おそらく今の世の中的にはこんなことを書くのは、むしろ損ばかりだろう。
しかし本文中にも書いた通り、その雰囲気が息苦しい側面もあり、根拠を持って一矢報いてみてもいいかなと。