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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

労働問題:物流危機

pytho.hatenablog.com

 

物流関連をやっていたこともあって,興味深いので岩波新書を読んでみた.

 

 

まず読んで再認識したは,物流も土木的な縁の下の力持ちのような特徴を持っているなということだった.

この点は本書でも結構強く主張されている.

というのも普段使っているECが大きな負担になっているということだ.

さらに近年の再配達問題しかりだ.

 

一方でこれだけの負担であれば,需要と供給のメカニズムから適正化が進むはずだと考えられる.

しかし物流の同質性の高い産業の特性や労使の様々な意見からうまく進まなかった.

 

こうした問題は最近では他の産業でも他山の石ではないように思える.

コロナに関する持続化給付金の問題だ.

 

その後、最低車両台数のさらなる緩和が議論されてきた。だが国交省は、トラック事故が減っていないことを理由に、参入の完全自由化を拒んだと言われる。つまり経済的規制を緩和すれば、安全性の確保という社会的規制が保てなくなるという危惧から、(それが十分であるかどうかは別として)五台という最低水準は、今も残されている。こうした動きからも、経済的規制と社会的規制を切り分けて論じるのが難しいことが分かる。

 

この経済的規制と社会的規制のジレンマは,緊急事態宣言による感染抑止と経済の再生の問題に非常に似ている.

 

また事業主の規模による違いも同様の構造である.

物流において宅配はヤマト運輸などの大手が寡占するのに対し,幹線は中小零細企業により過当競争になっている.

大手の小口配達には物流センターなどのシステムが規模の経済に有利に働く一方,幹線は車とドライバーさえあれば取り組めるため参入障壁が低い.

本書によると,さらに後者では,健康診断や社会保険を削り,人件費を削り尽くしている.

こうしたモラルハザード的な状況がさらに過当競争を生む悪循環に陥っている.

 

運賃についても難しい側面があるようだ.

実際のところは荷主の言い値である場合が多くこれも一因になっているようだ.

加えて複数の企業において適正化として考え,運賃を釣り上げていくことはカルテルに繋がる恐れもあるようだ.

一方で最低賃金にはこの規定は適用されないので,そうした面から考えることもできるだろうとしている.

裏話になるがこうした点は定まったデータがないため研究においても苦労した点である.

 

小泉時代だろうか,一連の規制緩和と同時期に制定された物流2法が定められる平成初期までは適正運賃というものが定められていた.

これによりモラルハザードが防がれていた.

ただ時代背景もあり,全国の高速道路網が整備されていったこともあるようだ.

それまでは域内と地域間で分けられてすらいたとか.

生まれる前なので実感がないが,確かに圏央道やら第二東名やらネットワークとしての整備は依然続いていることを実感したり..

 

研究の裏話から少し脱線したが,そちらに再び話を戻すと,物流の持続性という点では私は環境の側面で見ていたことになる.

ヤマト運輸や佐川急便も電気自動車EVの宅配トラックを随時整備していくことを発表している.

しかし実のところ,人手の持続性の方が逼迫しているようにも思える.

人手不足も同様にずっと叫ばれているが,加えて高齢化が進行している.

残っている人たちも年齢的限界がある.

無理をしようものなら事故が多発してしまうだろう.

それに比べ若手の参入は非常に少ない.

確かに周囲にトラックドライバーをしている同世代は見られない.

筆者は給与水準の低さや家に帰れない産業特性を挙げている.

確かに最近の世代は転勤を強く嫌うし(私はむしろ逆だが),中小であれ連携してリレー輸送するなりしないと今後は厳しそうだ.

あるいは物流は全産業が依存するので,社会的関心の高まりにより適正な運賃が払われるようになればいいが,ESGやらサプライチェーンの見直しやら言われるものの,金銭的インセンティブなしには難しそうだ.

あるいは間接的に投資家または政府の法規制が入らないと難しいか.

 

とはいえヤマト運輸も先日アマゾンと再交渉するなどいい方向に向かいつつありそうにもあるので今後に注意だ.

また楽天もOne Delivery構想として自社配送網の整備を進めている.

 

追記

鉄道各社をはじめ物流業界にも計画運休のような無理な配送を断る場合が散見されるようになっているらしい.

鉄道も同様だがこれまではサービスとして顧客至上主義になりすぎていたので,こうした”緩み”は全体の幸福,文化水準の向上の追求として望ましい形に感じる.

 

また特に幹線輸送においては自動運転も期待されるところだが,技術革新の不確実性は高い.

確実性が比較的高いものとしては隊列走行において,先頭車のみが手動運転で追従車が自動運転とする案がある.

追従車を無人運転とすることも考えられるが,同一の拠点OD間を数台分のトラックに積載する大量の荷物は場合として少ないと考えられる.

既存のターミナルのようなものや,追従車もドライバーが同乗して睡眠など休憩もできるような運用面での工夫も求められそうだ.

 

最後に個人的な話で締めると,家族含めECはかなり使うようになってきたものの,実のところ出られない場合も多い.

そのためセキュアで多きめの宅配ポストを置きたいところだ.