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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

社会人から見た部活描写における組織論・目標・コンピテンシー

最近の映画関連をテーマにひとつ
ネタバレあり

響け!ユーフォニアム

大人数の部活としての群像劇が面白い。
もちろんテーマになっている吹奏楽や映像も素晴らしい。

本シリーズは一貫して本気で向き合うことをテーマとしている。
部活の目標として、インターハイやら甲子園やらの出場もしくは優勝・金賞は、語られがちな典型的な目標である。

しかしその本気度は学校ごとに異なるし、校内:部内でもグラデーションがある。
それが練習に対する姿勢のすれ違いで不和の種になったりするのは、誰もが部活という人生で一度は直面するだろう。
この原因を考えれば、本気度が異なることを「対話」してすり合わせられていないことが挙げられる。

これに対し本シリーズは年初に顧問が生徒の自主性を重んじるとして問いかける。
そしてその判断を尊重した姿勢を提供する。
非常に理想的な教師像に見える。

本作は全国金賞を目標に定めガチ部活を描き、同じ京アニ制作の「けいおん!」などの緩い雰囲気とは一線を画す。
前者が社会人に刺さりやすく単な萌えが良く悪くもしにくい雰囲気にしていると思う。
逆に言えば後者は、娯楽的な享楽性、桃源郷の描画に傾いている。

一般にアニメといえば特に京アニ系は登場キャラクターが可愛いで終わりがちだが、これは群像劇としての各人物の深掘りが丁寧。
その意味でいえばPsycho-Passシリーズなんかも近いかもしれない。

リズと青い鳥

ある意味でミステリー的な叙述トリック的記述が肝。
心理描写やその音での表現効果はシリーズ随一。

青春的な甘酸っぱさ、原作者の武田綾乃の本来の味わいは、1期やこれが強めかも。

響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜

新1年生が曲者ばかりで、先輩として対応に苦慮する話。
社会人的に組織運営として非常に刺さった。個人差はあるかもしれない。

新1年生が組織論による典型的なペルソナが対照的に描かれている。
これは前述の目標とも近しい。
どの会社においても勤めている限りにおいては、組織や目標からは逃れられない。

新1年生は経験の有無から、いわば強硬派と穏健派がいる。
こう書くとかなり堅苦しいが、要はワイワイ系としっかり系だ。
部活としてよくある構図だ。
JTCと外資の対照とも類似する。

そこでそれぞれが組織への溶け込みや目標へのコミットメントの仕方を模索するといった具合だ。

またそこでのコミュニケーションも面白い。
強硬派本人は案外ハイコンテクストを駆使してくる。
取り持ち的な中道強硬派の同じく新1年生のキャラが、ローコンテクストで悪魔的に補足してくる。

ここは新人が上述したような目標の設定過程を、把握しきっていないカルチャーギャップの描画とも言える。
これのはまさしく新卒研修や就活と同じだ。
本作は割りと重要なところは、しっかりとローコンテクストなのが救いだ。
しかし現実の日本では、しばしばハイコンテクストでなあなあなので、たちが悪い。

この悪魔キャラは一般に好き嫌いが分かれやすいタイプだと思うが、作中ではそうなってはいない。
むしろ同期ではリーダーシップを発揮できているのは、腐っても同上の組織感が涵養されている賜物だろうか。
作品としての描画のフォロー的なバランス感も絶妙だ。

新1年生の各自もさることながら、それを管理するメンター的立場の主人公の苦悩がまた社会人泣かせである。
いわば中間管理職編だ。ざわざわ。
むしろ現実でも本作でも、本人より周囲のが苦悩しがちというのは、あるある話ではないだろうか。

響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜

本項が現在公開中の最新作。
主人公が進級して部長になっている。

部長として見る範囲の広がりが、やはり社会人的成長に見えてしまう。
学校だと進級により世代交代が強制されている上、上がつかえるという問題もないので、組織人の成長環境としてこの上ないように思えてきた。
会社は会社によりまちまちだね。
一応査定の結果は受けるが、その重みに差があり、実質的な年功序列を置くか実力主義的であるか。

構造的な問題はともかく内面的な成長も描かれていて、上記の強制力の影響も大きいだろうが、周囲への気遣いの比重が増している。
主体性も同様か。
このあたりはコンピテンシーの成長とも同義だ。

ただこれらは主人公よりかは、役職の他メンバーの方が一見優位に見える。
しかしここも考察のしがいのあるところで、そうではあるもののその各メンバーを使いこなせれば、上位者が必ずしもその能力をすべて上回る必要はない。
誰が何が得意かということを徹底的に把握して、使いこなせるのであれば、組織としての運営は問題ない。
冷血漢的記述になるが、作中ではむしろ支えられている印象すら与えられるので、このあたりは解釈次第でもある。

ただやっぱりこういう人事評価の目は重要だと思っていて、日本の多くの人事システムは既存業務の延長線上に管理職が置かれているが、どう考えてもスキルとの関連性が一致しない。
そりゃ業務のスーパーマンは能力が高いということになるので、管理スキルとの相関性も一定はあるだろうが、やはり年功序列の置き土産の印象だ。

ともあれ、強硬派と穏健派の幹部を取り持って、中間をとって合意形成し、意思決定の決断力がある。
さらりと描画されているが、地味に芯がしっかりしている。
このさらっと感で、教師は理解を示している一方、本人が自覚していないのは高校生らしくていい。
このあたりの作品としてのリアリティみたいな世界観が損なわれていないのは感心する。