昨今の情勢ではあるが,引きこもり続けているのも非文化的なので,久しぶりに映画を見に行った.
題材は以下.
メジャーなクルエラとも迷ったけど松竹系で見られないようなので残念断念.
その状況下でもこれが選択肢に残るのが実に私らしいとも思う.
以前も近い政治テーマで書いたし.
当人も釈放されたが,どこまで戦えるかは疑問だし,状況的に難度を増していることも十分に理解できる.
香港問題は一度置いておいて映画の題材に戻ろうとも思う.
前述のように関連する北朝鮮体制に関するテーマだ.
3Dアニメの形式がとられている.
映像に関しては決してリッチとはいえないものの,ことこのようなテーマにおいてはその映像的美麗さの優先度は低いので大きな問題ではない.
またあえてかポリゴン的表現がされているが,それほど違和感もない.
ただ音楽も含めて,盛り上がりに欠けてしまう感も否めない.
まあただのお涙頂戴フィクションとは事情が異なるので,映画だからといってこれを求めることがナンセンスか.
しかし国家の緊張感や現実感と,日本民謡の懐かしさ,二胡的楽器の雰囲気など興味深い点もある.これは映画そのものというよりかは,現地の音楽文化そのものか.
もっともあの体制下で革新的文化が育まれるとも思えないが.
そして日本民謡という記述に興味のある人もいるだろう.
本作の主人公は日系二世的側面を持ち,作中では拉致被害者も登場する.
あえて本題から逸れた話から触れたが,本作で最も重要なのは社会主義,共産主義下での国家運営や市民生活的な部分と言えるだろう.
個人的な政治スタンスを一応付記すると,別段これらの主義体制そのものは否定しない.中国のように強権的な運営による加速度は評価できる.トップが優れていれば,最も効率的な体制だとすら思う.しかしこれまでの歴史が示すように,その運営は極めて難しい.また中国やナチ政権でも少数民族など迫害の元に成り立つことが問題だ.
冒頭,主人公は学校でも成績の優れる少年だったが,親の失態の連帯責任として収容所送りされる.そもそもとして,学校での都市生活においても監視されている.
さらに収容所は独自化した権力システムが構築される.
そこでは監視役が腐敗している.禁止された西洋娯楽を貪りながら,酒や女に溺れる.
監視役は被収容者を非人間と罵るが,ブーメランが深く突き刺さっている.
本国に人権的価値観や教育がないだろうから,それを彼らに求めるのも酷というのが難しいところだ.
そう何よりも人権問題が問題だ.
別段独裁も悪くはない.その下で人権侵害されていることが大きな問題だ.
収容所ではカイジの地下労働のような描写がされる.
21世紀とは思えない労働環境だ.
炭鉱にしろ農産にしろ軽工業にしろすべてが手作業なのだ.
日本海の漂流船が木造である旧態然っぷりが話題になったことがあった.
そして監視役はそれをサボらないように監視するわけだ.
その強権的で優越的な立場が,腐敗と人権侵害を生む.
そこに当然不満は募るが,暴力による統制がひかれている.
ティール的には赤,あるいはオレンジの組織だ.
21世紀なのに文明前,紀元前のような体制にため息が出る.
また手作業な上,監視を置いているから生産性が低い.
このあたりは日本のブラック企業も他山の石として,相手を批判できる立場にないかもしれない.
ここまで体制的な批判を尽くした.
では国民性はどうか.これは良好だ.
社会主義体制下でありながら,監視役や憲兵的な立場との差を感じる.
とはいえ各人は概ね情に厚い印象を受けた.そういう描写だった.
ヒロインを強姦した憲兵は,(その行為の非は強く正されるべきであることは当然としつつ,)口足らずな陰キャで彼女に基本的に優しく(そこに間違いなく下心はあったが),妊娠させたことを後悔していた.
主人公も思春期は冷血に収容所内政治に務めていたものの,身近な死と親の愛と教育を通じて優しさに目覚める.
ゆえに根本的に東アジア特有の事情,思想背景として,程度の差はあれ,儒教や孔子の倫理観の影響は拭えないようにも思える.
だからこそ余計に人権侵害の上,文化的発展を阻害する現体制を強く批判せざるを得ない.
然るべき環境があれば,ハンディキャップを抱えてしまうことは必然ながらも,1つの自立したいい国家が作れるはずだ.
しかし綺麗事を言うのは簡単だ.
経済学的視点を加えれば,変革・改善は早いほど以後の効果も高められる.
先延ばしに利点はない.
短期的なタイミングの見極めの重要度はあるにしても戦後から長過ぎる.
ではなぜ戦後70余年…というよりかは朝鮮戦争停戦後しばらくがすぎても,問題が解決しないのか.
意外と問題は単純に思える.
核だ.
体制トップがこのスイッチのワイルドカードを持っている限り,やはり他国は迂闊に動けない.
そういう意味でやはり外交の巧妙さには舌を巻かされる.
また地政学的(←これは不勉強なので随時勉強したいが)にも難しく,中露が近いのもWINWINなところがある.
中露は北を盾とし,北も中露を牽制材料に使える.
しかし先延ばしにし続けた結果,アメリカ本国も射程圏内となり,当該国内での苦しみは続いている.
日本の拉致被害問題も進展しない.
SDGsを掲げるのもいいが,真に行うべき取り組みは,こうした啓蒙や防止だろう.ユニクロのウイグル懸念の禁輸も,その是非は微妙かもしれないが,疑惑のもとに厳正な態度で臨むことを示すことに,大きな社会的意味がある.
現在価値を考えた時間軸ベースでは,環境問題より人権問題や文化的生活の方が優先度は高いと私は思う.
蛇足にはなるが,会社の同期のチームメンバーに,イスラム特にことパレスチナ問題に関心のある人がいた.
最初は意識高いと感じ,そのことに関しては敬遠していた.
しかし情勢はネットで簡単に調べられる.
恥ずかしながらイスラエルはほとんど理解していなかったが,ネットの近代史の解説やYouTubeで勉強を補えた.このあたりの内容は現代の学校教育の穴と限界でもあろう.
するとミサイル打ち込まれてかわいそうながら,アイアンドームが格好良く,ワクチン接種も積極的で好印象だったイスラエルの印象は逆転する.
この自身の不勉強ゆえの経験から,啓蒙の重要性や影響度を感じた.
そこでもやはり現地の人権問題が最重要事項となろう.
世界にこの問題は多く残っている.
日本の課題の多くが矮小化されてしまうほどに,世界は地獄に満ちている.
本作はTEDでのスピーチを元に,その語られる内容としてある.
ゆえにこそ,そうしたメッセージングの重要性も強く感じ,私も見たその日にこうして記している次第だ.
そのためにあえて胸糞にしている説もある.
最後に包括的な感想を述べると,話自体は暗いので実際万人に勧められるものではない.ただ問題の関心はもっと高くあるべきだ.意識高いと敬遠されたとしても.生まれる場所が1000km違っただけで,あるいは海沿いで連れ去られただけで,炭鉱掘りをしてたまるか.そういった当事者意識がもっといる.
北朝鮮はコンギョなどネットミーム的に扱われてきたが,そこに理解や敬意を感じるものはあっただろうか.理解と発信が,冒涜的に消費してきた責任,贖罪にもなるかもしれない.
また本作は英語で作られているので,そういう意味でも勉強になった.
なお近況報告的になるが社会人の資金量からすると,ポップコーン代は雀の涙のようなもので貪っていた.