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高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

印刷博物館

3月の学生ライセンス駆け込み博物館めぐりの2件目は印刷博物館

王道の科博や未来館も悪くはないが,どうも子供向けなイメージがあって展示物の趣味が合わないような気もして,地味めなセレクト. 

選定理由としては特別展の本の装丁の展示もあった.

イギリス留学のときにメンバーが包装美術館のようなところに行っていたのが,ずっと少し引っかかっていた.

 

印刷博物館凸版印刷の本社ビルの地下に設けられている.

凸版印刷,就活時に逆推薦的なメールが来たような気がする.

ぶっちゃけ職業としての印刷はあまり興味がなかったのでスルーしたが.

所在地は飯田橋江戸川橋の中間付近.

山の手線内にしては徒歩の距離が長く若干不便なようにも思われる.

ターミナルとしてのポテンシャルの高い飯田橋が最寄りなので,さほど問題はないかもしれないが.

本社併設ということもあり,特に帰りがお昼休み明けなこともあってか,商談と思われるスーツのおっさんも多くいた.

 

企業として自社に関連する技術文化について継承施設を設けていることは非常に好印象だ.

流行りのESGに照らせばSocietyとしての価値が高いか.

入館料は学生料金で200円.非常に安価だ.

値段もあって展示がしょぼくないか不安だったが,コストパフォーマンスとしては非常に高いと思った.

印刷に特化しているので,当然ながら先日訪れた国立博物館ほどの規模はないが,その特化したものをうまくまとめている.

意外だったのは展示物の方向性が,技術の歴史に重心が置かれていたことだ.

てっきり凸版印刷としての会社の経緯やこれまでの功績をまとめた比率が高いものと思っていたので驚いた.

むしろ上記のような展示はほとんどなかった.

例えばインクジェットなどの現代の技術については展示がほとんどなかったので,そこはそこで悲しいものもあった.

 

それではどのような展示があったかを下記にまとめる.

とはいえ館内はほぼ全館で撮影禁止だったので,文字だけのまとめになる.

この点も少し不満ではある.

展示物によっては緩和してほしくもある.

またパンフレットを振り返ってみると,開館は2000年で20年の節目で展示物を更新したようだ.

それ以前のラインナップも気になるところだ.

 

展示は日本の印刷技術の推移を時系列を追ってまとめられている.

古くは奈良時代に寺院を中心に行われていたようだ.

当時は最も原始的な消しゴムはんこのような凸版に始まる.

印刷にも種類があり,他に溝が転写される凹版,文字ごとを組み合わせる活版,表面に化学処理を行う平版がある.

 

活版は江戸時代の頃までに台頭していったが,元禄文化などによる(?)江戸時代の大量印刷のニーズに合わせることが難しくなり,凸版が再興した課程も興味深い.

凸版のただの再興ではなく,多色刷りをすることにより表現力を高め,これらを奉行方や職人をつなげることでビジネスとして成功を収めたようだ.

そういえば先日の国立博物館の特別ブースに類似するものがあってやっていた.

 

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pytho.hatenablog.com

 

また東アジア圏では文字数が多く,活版は汎用性が低かったようだ.

 

銅の酸化を用いたものも原理的に面白かった.

理科に美術や古典的エッセンスを加えた授業として紹介したら小中学生も興味を強く持てそうだと思う.さすがに難しすぎるだろうか.

エッチングやスクリーン印刷(うろ覚え?)だ.

 

明治に入っても印刷技術は現在ほどではなかったので,教科書にも凸版印刷などが使われていたようだ.

またこの頃から情報媒体としての印刷物の政府管理が台頭したようだ.

以前も奉行の認可制はあったが,明治維新によって学校教育や新聞などが広まり,公平性や政府の管理性から試行錯誤されていたようだ.

特に戦争期は露骨だ.

戦争関連資料を代表に写真が印刷にも利用されていくようになった.

ただし当時はアナログな校正なので,確認のたびにする必要があり大変だったようだ.

 

プレビューのありがたみが染みる.

これはパソコンが普及するごく最近まで続く.

また現代でもチラシなどには試し刷りして顧客に確認をするのが一般的なようだ.

一方でこれでは時間がかかり,現代の高速なビジネスについていけないこともあるので,そうでないサービスも台頭しているようだ.

もっともこと印刷広告においては,グーグルやサイバーエージェントのようなデジタル広告によるディスプレイ表示との競争も厳しいのが本音だろう.

 

また多色印刷の精度も上がり,週刊誌の表紙を女性が飾ったり,相撲取りなどの様々な表現豊かなポスターなども登場していった.

色の三原色の原理から,色を重ね合わせることにより,よりリアルな表現ができるようになったようだ.

一方で原色インクも完璧ではないので,求められる色の表現力に応じて,色が加えられることもあったようだ.

 

この博物館は美術館的要素も持っているように感じた.

かつてのエッチングの細かな表現力や活版の文字の鮮明さには感心するためだ.

 

また印刷技術そのもののみならず,印刷技術に応じた文化や学術の進展も面白い.

ケプラーの図やロイヤル・アカデミーとの関連も,こと印刷によるアウトリーチ的な側面では重要だったと言えるだろう.

 

さらに今回は日程(3/5)はコロナもあって,VRシアターや体験工房は休止していた.

これらを狙いに再訪も楽しみだ.

そういえば現代の展示は少なかったが,サンセリフ体などフォントによるまとめなどもあった.

他には輪転式の紹介やお菓子のパッケージなどがあった.

新聞の工場でぐるぐるまわっているものの原理が理解できてスッキリした.

 

 

 

その後,冒頭で述べた特別展の見学をした.

世界のブックデザイン 2019-20 | 企画展示 | 印刷博物館 Printing Museum, Tokyo

 

展示は一部屋なのでごく小規模ではある.

世界のコンクールの入賞作品が展示されている.

そのため書籍とはいえ英語や中国語で書かれていて内容は判然としないものもぶっちゃけ多い.

ただ装丁やレイアウトなどのデザイン性を主に問うものなので大きな問題ではない.

 

こちらも撮影禁止だったのが惜しかった.

こちらに関しては著作権の問題があるので仕方ないと思うが.

 

またコロナのためゴム手袋の着用が必須になっている.

 

原則としては台上に広げられて固定された状態で展示されている.

そのため特定のページなどしか見ることは出来ない.

ただし一部は自身でめくれるようになっている.

 

本といってもリング式のものや手帳のようなものなど個性豊かだ.

意外と感じで雰囲気を掴めそうだと思っていた中国の作品の方が個人的にはむしろ分からなかった.

欧州系を中心に建築関連の書籍の多さが目立った.

やはり海外の建築は美しい.書籍化においても,そのセンスがにじみ出ている.

日本はビルのメンテ,すなわち掃除の作業性から,矩形のビルばかりが目立つが,そうした雰囲気は書籍化にも反映され没個性化してしまっているのだろうか.

 

個人的に好きなデザインだったのは下記の本だ.

出典:2019年度“最美的书”评选揭晓,25种图书获奖_文化课_澎湃新闻-The Paper

 

開いて見ることは叶わなかったが,発色も優しくて良好で,中国の煩雑な雰囲気を感じさせないものだった.

解説によると,中国の有名な古典文学の抄訳版のようなものらしい.

日本で言う源氏物語だろうか.

 

 

 

ぶっちゃけ全体を通して予想していた展示とはベクトルが異なったものの,いい意味で予想を裏切られて思いの外面白かった.

冒頭のパッケージングのデザインはマーケティング的要素も強そうだったようなので,そういうものを国内で改めて見られればと思う.

 

 

次回は以下が候補.

 

美術館の春まつり 2021 | 東京国立近代美術館

OR

pytho.hatenablog.com

上の関連で

kumakengo2020.jp

OR

ドボ博 | いつものまちが博物館になる