AOKI's copy&paste archive

高専から駅弁大学から東工大を経て大企業へ 浅く広い趣味とかキャリアの日記を

隈研吾展の感想

昨日,表記のとおり東京国立近代美術館にて行われている特別展の隈研吾展を見てきたので,そこでの感想をまとめようと思う.

日本の美術館系にしては珍しく思えるが,写真撮影が比較的許容されていたので,写真も多く示しながらまとめたい.

 

f:id:pytho:20210711202034j:plain

 

冒頭はやはりキャッチーで最近の代表作である五輪会場,国立競技場のエスキス模型がまとめられていた.

しかしこの区画は残念ながら撮影禁止だった.

代わりと言ってはなんだが,エスキスではないしっかりした国立競技場の模型を以下に.

 

f:id:pytho:20210711202054j:plain

 

やはり時間が短かったのか,CAD図面の床面の上に壁のスチレンボードが重ねられていたりするのは,代表的な建築事務所の忙しさが表れているようで面白いと思った.

雑な作りと悪く換言することもできるが.

このあたりは今後は3Dプリンターによって大きく変わりそうな予感もある.

 

ちなみに私も建築系・環境系の講義でエスキス模型を作ったことがあり,プロ建築”科”というわけでもなかったので,同様に紙の図面にスチレンボードを切り貼りしていた.そのため親近感を覚えた.

 

f:id:pytho:20210711203018j:plain

 

また冒頭の画像にも示した通り,本企画は隈建築に加えて,彼自身が感じたネコの視点の重要性が付加されている.

しかし要素を1/100にしたような,細部や全体のエスキス模型では,鳥瞰的・俯瞰的視点は養えても,当事者的・人間的視点はおろか,猫の目的・虫の目的な称揚的視点の外挿は難しいと思えた.

 

わざわざ金を払って展示を見に行く人にしては珍しいだろうが,個人的には案外批判的な目で見て回ってた.

どうしても隈建築の印象として,木の板を切り貼りしたり,構造的なノイズ,視覚的効果としてだけの木の利用が引っかかる印象があるからだ.

浅学だが彼の建築は構造的には単純な鉄骨造に見えてしまうからだ.

さらに木という自然材料を使いながらも,その使い方は死んでいる.構造的にも死荷重だし,役割を担えているでもない.

有名な話だが,国立競技場の天井の梁も鉄骨を覆うだけで,建築のカテゴリも木造ではない.

彼はポストモダンに大別されるが,やはりモダニズム建築のダイナミズム,曲線,目を引く構造が好きなのだろう.

 

f:id:pytho:20210711201912j:plain

 

上は浅草文化観光センターの模型.

外部の柱もとい窓枠の木は階層ごとに分断され,構造的耐力は内部の透明で置換されたRC(Reinfoced Concrete)か鉄骨の柱に依存している.

 

国立競技場で廃案となったザハ建築は,曲線的なモダンな設計で,キールアーチに代表される構造的支持の面白さが好きだった.

というか国内の高層ビルにしても,日本は管理性,窓拭きのしやすさのみ重視して,町並みや外観としての面白さが大きく欠如している.

 

f:id:pytho:20210711201950j:plain

 

上は小松精練ファブリックラボラトリー.

ごく一般的なSRの箱物の天井にアーチの構造体と,カーボンファイバーによるカーテン状の構造が目に留まる.

アーチとして見るとザハ案に劣るし,曲線的にもカーボンファイバー:糸なので面的な面白さは劣る.

またこのアーチに構造的重要性が感じられない.

特別に支持するような大径の柱も見られないし,片面にだけ引張力を持たせる意味がない.

筋交い的なものがあればまだしもといった印象だ.

 

f:id:pytho:20210711202003j:plain

 

上は富山のガラス美術館であるKirariだ.

重層的でありながら,ショッピングモールにあるような画一的吹き抜けと異なり,意図的にズラされているのは面白い.

彼は幾何学的なパターンの繰り返しを,あえて少しズレさせることをよくする印象がある.

これはこれでモダンな建築っぽくあり,断面図を精査してみると,柱が不連続のように見え,構造的な非効率がとられているように見える.

ここは訪れたことがあったが,こうして断面的に見ないと気づけない.

 

 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 

A post shared by AOKI Takashige (@aochan_0119)


 私の大好きなポートランドなど世界各地にも建築をされているが,伝統的日本建築感はあまりない.

特にポートランドは日本の関連施設なので,もっと古い日本の雰囲気を出したほうが,受けそうだが.

 

ちなみにこれらが記述されたパネルの撮影はNGだった.

だったら今回の展示についてまとめた書籍を出してくれ.

 

ミュージアムショップは関連書籍はあったが,そういうのはなさそうだった.

ちなみにせっかくだったので,常設展の解説本がフルカラーで1300円くらいで激安だったので,記念にそれだけ購入したのは余談.

 

批判的記述が多かったが,個人的に好きな展示もあった.

某スタバなどでこうした組木的な要素があり,それを原寸大?で展示されていた.

そこで節点を見れたのは非常に面白い.

ただこれはパターンなので,結局のところ工場的な繰り返しで,それぞれに色やグラデーションがないのはやや残念なところでもある.

また実際はより丁寧かもしれないが,案外節点での隙間が大きかったり,単純にビスで貫通させているのも残念だった.

このあたりは現代建築での価格競争の中で厳しいのかもしれないが,ここに伝統工法が組み合わされば最強とも思う.

ただやはり壁全面のような規模感で,ただでさえ不足する職人の工数や単価を考えると,現実的とは言い難いか.

ただ構造的な合理性とは競合しないようにも思う.

錦帯橋がいい例だと思う.

 

f:id:pytho:20210711205450j:plain

 

f:id:pytho:20210711205309j:plain

 

f:id:pytho:20210711205321j:plain

 

上はシドニーのThe Exchange.

これも隈建築には珍しく曲線的なのが面白い.

さらに木を使うのは隈らしいが,こうした飾りの要素であれば,加工性からして鉄一択だが,そこをこだわり通しているのは好印象に感じた.

 

 

で,前半は普通のエスキス中心の建築展.

別室でネコを中心とした展示が行われている.

こちらはインタビュー動画やCGを駆使した現代的な展示.

 

半野良のネコの生態や生活に注目して,東京の都市としての構造をリフレーミングしているのは面白い.

特に窮屈さを良しとする姿勢は新鮮な印象だった.

とはいえこちらは展示としてのボリュームがどうしても少なかったかなという残念さが残る.

しかも都市のネコと隈建築に繋がりがあまりなかった.

 

ただ決して不満だったわけではなく,深く考察できたからこそ,知的好奇心が満たされたというのが率直で素直な感想になる.

 

pytho.hatenablog.com